Echoes

連載われらをめぐる山

トレランレースの運営やアクティビティを通して見えてくること、
我々をとりまく山をめぐるストーリー

5幕営スタイル建築(続き)

前回、山でのテント生活の延長線から普段の生活での家の在り方を考えてみよう、という話をした。
もしテント生活のような軽さと自由さを家に取り入れることができるなら、どんな風に家に対する捉えかたが変わるだろうか。

テントの特徴を考えてみると、まずは持ち運べるということ。

  1. 軽量でコンパクト
  2. 組み立てと解体が容易

ここで軽さ、という部分に着目してみる。物質的に軽いということはどういう事に影響するだろうか。
まず扱いが容易になる。作ったり移動したり壊したりしやすくなるので、重機を使わずに人力でできることが多くなる。ということはDIYでできる可能性が高くなる。重たいとそれだけ基礎もしっかり作る必要があるけれど、軽ければその必要性は小さくなって、低コストでできる要素が多くなる。地震に対しても建物が重たいほど不利になるので軽い方が有利。
デメリットとしては、風に対して弱くなるので、建物が飛ばされないように必要な箇所の耐風対策が必要になる。

もうひとつ別の視点で、思考的な軽さについて考えてみよう。
僕のとても好きな本(映画もすごくいい)で、ミラン・クンデラという作家の『存在の耐えられない軽さ』という小説がある。そこで展開される話の中では物質的な重さ軽さということではなく、哲学的な概念の「軽さ」ということに絡めてストーリーが展開していて、人生の選択における意思決定の軽さ、人との関係性における軽さ、そういう事を考えさせられる、ちょっと一風変わった小説。
ニーチェの未来永劫という概念を引き合いにして、人生というものが一回限りのものなのか、やり直せるものなのか、もし繰り返されるのであれば人生の岐路に立ち大きな選択をしなければいけないときでも、また次があると思えば、ふっと軽く決めちゃうことだってできるよね、という話。
最近のエンタメで例えるなら、ドラマ『ブラッシュアップライフ』の世界。人生2週目、3週目ともなれば、前世の記憶があるから選択も変えていける。
軽さ、という思考は精神的な深刻さから解放してくれる要素なのだと思う。

次に組み立てと解体が容易だとどうだろう。
組み立てと解体がしやすければ、移動先に家ごと持っていくことができる。引っ越しの感覚で家もパーツに分解してトラックに積んで持っていく。ノマドワーカーのように、好きな場所に滞在しながら仕事をして、また次の場所に移っていく。モーターホームで満足できるのであれば、それでもいい。しかし、モーターホームの外寸は道路の関係で横幅2.5mの制約があるから、もう少し広い空間が欲しいとなると別の選択が必要になる。ある程度 長期で住むにはモーターホームはちょっと狭い。

また、組み立てと解体がしやすければ家を足したり引いたりしやすいので、ライフステージに応じて空間の大きさを変えていけば、余計な維持費や税金などが不要になってくるだろう。

テントのような要素を持つことのメリットは想像以上に大きいのかもしれない。ここまで見てきたように、キーとなるのは軽さと拡張性だろう。
なるべく身軽にして、足したり引いたりしやすくする。

具体的にはこうだ。
上部の建物はユニット化された軽量鉄骨フレームにパネルをはめ込んでいくだけの形にしてビスや接着剤をなるべく使わずに組み立てる形にする。
基礎はコンクリートを使うと動かせなくなるので、コンクリートは一切使わずに太いパイプ状の杭(鋼管杭という)を地面に埋めて少し地面から突き出すような形にして(高床式住宅のような形)上部のフレームに直接接続する。鋼管杭は引き抜くことも他の杭(コンクリート製の杭とか)に比べてしやすいので、再利用しやすい。
ひとつのユニットサイズを決めて、それを並べて拡張していけるようにする。別棟でもいいし合体してもいい。
ハードルが高いのが設備。電気・ガス・水道のライフラインをどう組み込むか。オフグリッドで設備を独立させるのはなかなか工夫が必要なので、その場所にライフラインがあるのであれば、できる限り既存インフラには接続した方がいい。

ここまで家についてテントの要素を入れた「幕営スタイル建築」について妄想を膨らませてきたけれど、家とはこういうもの、という一般的な考え方を少しでも外していくと、面白いアイディアや可能性が開けて、自分でも予想していなかったような展開になっていくかもしれない。
選択肢を多く持つことは人生の様々な局面において有利に働いてくれるはず。「住まい」というものが、自分にフィットしたものになっているのかどうか、将来にわたってそれがフィットし続けられるのか、もし今から選択肢を増やしておくとすれば、どうすればいいか。そういう思考を持っておくことは、自分の暮らしの質を上げるための重要な要素になってくるかもしれない。

テキスト・写真/安部貴祐

プロフィール

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安部貴祐(あべ・たかまさ) 大学生の頃から登山を始めて二十数年。八幡山岳会に所属。
トレランレース(カントリーレース、北九州・平尾台トレイルランニングレース)の運営をライフワークにしている。
仕事は建築設計、コルチナ建築設計室の屋号で活動中。
関心事は、トレラン、登山、DIY、本、映画、音楽。

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