Web Magazine for Kyushu Hikers Community
4足歩行に進化して
岩を、山を、自分を、もっと楽しもう。
連載1回目はたくさんの人に読んだよーって言ってもらえてうれしはずかしであった。
日記すらまともに続いたこともなく、これまであまり過去の出来事や自分の考えをアウトプットする機会も多くはなかったが、この連載をきっかけに自分のことを俯瞰して見ることが増えたような気がする。ありがたや。
最近ずっと忙しくしている。
仕事ではない。遊びだ。
多くのクライマーはこの単なる「遊び」に真剣に、命懸けで取り組んでいるのだ。
そして今回特に、私は「クライミングインストラクター」の資格取得に向けてチャレンジを始めたのだ。
これには、遊びを仕事にできれば、というささやかな野望も少しは入っているが、自分がやってきたことのひとつの成果として、また、今までやってきた技術の答え合わせをして一旦頭を整理し、これからのクライミング人生の糧になればいいなという気持ちが大きかった。
インストラクターの先輩方は日本のフリークライミングの黎明期よりクライミングカルチャーを受け継いできた素晴らしいクライマーばかりで、資格を取得して協会に所属することで、その文化に生で触れ、その考え方やマインドを知りたいという気持ちは特に大きかった。
また、技術的な部分でも知りたいことは多い。クライミングの世界も、日進月歩である。
昔は良し、とされていたことが現在は安全上NGとなっているケースも多く山岳会などで教えられた技術が、実は間違っていた、という事も少なくない。
それで今まで事故がなかったのは運が良かっただけで、女性同士で登りに行くことの多い私は、岩場で「もしも」のことがあったときの技術を学びたい、また、初心者を連れていくことも増えてきて、きちんとした技術を伝えられるクライマーになりたいという思いも強くあった。
講習・検定のほとんどは約半年以上にわたって関東方面で行われる。
九州から毎月のように通うのは大変だし、難しい試験だと聞いていたので自分には縁がないと思っていた。
しかし昨夏、地元の尊敬するクライマーの先輩が亡くなられ、葬儀に参列した翌日にふと資格取得を目指してみようという考えが急に湧き出てきた。
先輩はかねてから私を指導者として推薦してくれていたのだが、その頃は、自分にはできないとその推薦を断っていたのだった。
今回資格取得を急に思いついたことは、先輩が後押ししてくれたような気がしてならない。
それは単なる思い込みなのだが、思い込みは時に人生を思わぬ方向に進ませるパワーがあると常々私は思っている。
クライミング能力、ビレイ技術、顧客の安全管理、レスキュー技術…。
いざ始まってみると、想像していたよりはるかに大変で、検定の前の晩は毎回緊張と予習で全く眠れず…。また、自分の甘い認識、ダメダメ加減に自己嫌悪…、という半年間を過ごした。
今回のチャレンジを通して、曖昧だった自分の知識や自分の弱さが露わになり、これまでクライマーとしての視点しかなかったものがガイド・インストラクターの視点で見てみると随分違うということ。アマチュアとプロの違いを痛いほどに感じた。
それと同時に、今回得た新たな視点を持って岩場に向かい、もっと成熟したクライマーになりたいという大きなモチベーションをもらうこともできた。
コンペなどの競技クライミングと違い、岩場でのクライミングは一部のプロクライマーを除き我々一般クライマーは誰が評価してくれるわけでもなく自己満足の世界であり、モチベーションを保つのは難しいと常々思うが、なぜ長く続けているかという事のひとつに、私の中では、自分の弱さを克服したい、成長したい、という欲があるのかもしれないと今回のことで気づいた。
前回の連載にも書いたような気もするが、クライミングは技術やフィジカル的なものだけでなく、メンタルがかなりの割合を占める。怖いのに、登る。怖さを感じないように登れると、余計な力が抜けて「あれ?」とびっくりするくらい楽に登れてしまったりする。
では、何故、怖いのか?
「たくさんトレーニングしたから、大丈夫」という自信。
「心強い仲間がいるから、大丈夫」という安心感。
「ここで落ちるわけにはいかない」という自分へのプライド。
「絶対に登るんだ」という強い思い。
そういったものが自分の心を強くする。
心と体はつながっていることを、クライミングをしているとつくづく思う。
そして、いつも自分の弱さを痛感し、時にそれはとても辛い。
でも、クライミングが好きだ。もっと強くなりたい。
いつもそのジレンマを抱えながら登っている。
今回のチャレンジを通して、弱い自分ともたくさん出会ったが、クライミング愛に溢れまくっているクライマーたちとの出会いもたくさんあった。
皆、クライミングと自分に、正直に向き合っていた。
そんなかけがえのない出会いの中で、新たな目標も見つかった。見つかった、というか、それはクライミングを始めた当初から漠然と憧れていたけれど、実現しようとしていなかった夢だ。(この夢についてはまた別の機会にお話ししますね)
おそらく、そこでも私は、自分の弱さとイヤというほどに向き合うことになるのだろう。
現在私は45歳で、もうだいぶんイイ歳である。
もっと若いうちにやっておけば、と後悔してもしょうがない。
それが人生。
タイミングは、いつやってくるか分からない。
悔いのないように、残りのクライミング人生を進んでいきたい。
そんな風に思うクライミングに出会えて、わたしはつくづく幸せ者だと思っている。
テキスト/安部亜希 写真/安部亜希とクライマー仲間たち
プロフィール
安部亜希(あべ・あき)
福岡市中央区で父と旦那と3人暮らし
パタゴニア福岡ストア勤務。休みの日はほぼクライミング。
座右の銘は「食う・寝る・登る」。宮崎比叡山にて