Echoes

連載いままでの山、これからの山

ふりかえると歩いてきた山があった。
ただバシャバシャと写真を撮るだけで、何も記してこなかった山のことを、そろそろ書いてみよう。

2最強低山

最強低山って?

山の情報を集めるときにブログやネットを使うことも多くなった。それにつれて気になる単語みかけるようになった。その単語は「最強低山」。

もちろん最強と低山をひっつけただけなのだろうが、「最強=高い」「低山=ラク」のイメージがあったので、なんだかチグハグな感じに聞こえるのだ。とはいえ、この「最強低山」と聞いて思いつく山がある。佐賀の黒髪山系や大分の国東半島の山々あたりがそうなのだが、そもそもは自分でそう思ったからではなく、登山後に人から言われてなるほど確かにと思えるような、そんな山であり、言葉であった。

「黒髪山、行ったことある?」「あそこは、低いけど急な最強低山」といった友人がいた。でも、黒髪山には簡単に登れた私にとっては、「最強低山」と聞いても、何が最強なのか理解できなかった。最強の定義って?そんな問いだけがこだまする。いったい最強って?

image 開門岳、通称薩摩富士美しい。

いまんとこ最強、磯間嶽

「最強低山」の謎を説くのに体感できる山にたまたま出会った。鹿児島県は南さつま市にある磯間嶽(いそまだけ)である。
標高は363m。ルートは3つあり、最短で25分で山頂に登れるルートもあったが、ぐるっと周遊できる約4時間の岩稜コースもあり、今回はそちらを選択した。

8月下旬、夏の終わりだがまだまだ暑さが残る。久々の鹿児島だったので、観光も兼ねた旅行となった。山は鹿児島市内よりも南部、指宿方面の半島に位置する。福岡からは遠いい感覚。
ちょうどそのあたりには開門岳がある。山容はベスト3に入る三角形シルエットがとても美しい。うっとりする。
ひさびさに見れたので、「あ〜、やっぱ登りたいな」と心をかきたてられるゾワゾワ感に開門岳への気持ちを再確認。たまらん。
開門岳後ろ髪を引かれつつ枕崎市内方面へむかう。翌朝の登山に備えて、近くのキャンプ場で前夜を過ごした。

image 火乃神公園キャンプ場からの朝日
image 県道からみえる磯間嶽全

岩とロープと垂直と

林道を歩き始めて10分後、さあここから登山道の入り口というところですでに、梯子とロープのお出迎え。面食らいながらも、そうかと思い登ると、すぐに第1岩場、第2岩場、第3岩場という地点があらわれ、中には大きな丸い岩に垂直ロープがだらりと垂れ下がり、見事に垂直であった。ちなみに第11岩場まであるらしい。普段ロープがあっても、なるべく使わず岩をたどり登っている私だが、これには完全ギブアップ。クライマーであればなんのことはないとおもわれるが…。
約7メートルほど垂直に登らなければならない大きな岩だった。足がかりがあっても浅く、ロープを全力で握り体を引き上げる必要があり、迂回ルートもなしときた。
初っ端からのウェルカムロープに、いったいどれだけ続くのかと、自分の中でスイッチが入り、しっかりと記憶に刻まれていった。

image 第1岩場付近の垂直ロープ
image しばらく岩のごつごつがつづく

汗は水のように、顔面はクモの巣に

岩稜線とやせ尾根のアップダウンの連続。中嶽394.5mあたりに着いた。展望はなし、とにかく蒸し暑い。
上半身の汗は、シャツの背中から腰へ、そしておしりの下まで広がり、絞れるほどにずっしりと重い。
アルアルの5本指に入るであろう、先頭の行く者の宿命、登山道のクモの巣攻撃。
手に木の棒をもってクモの巣をせっせと払うも、あまりの多さに間に合わず顔で受け止め通過する始末。結局は、顔にまとわりついたクモの巣を手で払うおっくうさ。帽子にも蜘蛛の糸がべっとりついて不快。夏はさけるべきだった。

image 岩の城のような山頂がみえる
image 足元には岩の稜線歩き

こんなにあるの?奇岩はみごと

岩とロープの連続から解放され、開けた稜線をたどる。「あれかな?」と、岩の城みたいなシルエットが見える、北アルプスのジャンダルムのよう。山頂と思われるが、手前にはまだもりもり岩と草木が続いていた。
テープがありルートはわかりやすいが、気をぬくとテープを見失いがち。足場はひたすら岩と根っこばかりで気が抜けない。ここまでに水平に歩けた記憶はない。後で知ったのだか、ワンコ岩、ゲロ岩、田の神さあ岩など名前のついた岩があったという。標識はなく確認できなかったが、どの岩も見応えがあった。ひらけたところに出ると展望もあり、どこも切り立っているだけに眺めは良かった。黒髪山、国東半島の山々の地形に似ていると回想するが、いやこちらの方がすごいなとつぶやく。確かに強い。

image ゲロ岩かな?ジブリ風(笑)

最後は30mのクサリがタラリ

ぽんと、岩の鞍部で少し広い場に出た。いわゆる肩の位置だった。いまから向かいピークの方向にはタラリと見上げるほど長いクサリが見えた。足がかりも少なめ。皆が語る、磯間嶽のもっともインパクトあるところだった。ここへ来るまでにロープへのテンションはじゅうぶんに上がっていたので気合いも入りやすく、一気に登った。山頂への岩場のルートは細い。突端の先の山頂へ出ると、お城のてっぺんに立ったような大展望。風は涼しく、気持ちがいい。
本当に標高363m?と疑いたくなるほどに山深い景色が広がる。ましてやこの高度感。しばし開放感にひたる。すると、なんと足元には蛇の抜け殻が。財布にいれたら、金運アップ?こんな崖っプチの山頂に脱皮した、神秘的できれいすぎるヘビの抜け殻、運気が上がる気配しかない。

image クライマックスのクサリ
image 山の神?蛇の抜け殻

最低高山?

「低山」は低いからってあなどれない、「最強」は人を寄せ付けない手強さという、私なりの新しい解釈が見えてきた。
そう思うと、磯間嶽への印象は深まり「最強低山」のおもしろさが増した。これから各地の「最強低山」にどれだけ出会えるだろうか。
あなたにとっての「最強低山」は何ですか?
思い出すようにひっぱりだし、ああだこうだといいながら、ひと晩飲み明かせそうだ。
そして最近は、「最強低山」の逆である「最低高山」となるとどこの山かな?なんて想像し、思いをめぐらせて楽しんでいる。

image 崖っぷちの大展望

テキスト・写真/石津玉代

プロフィール

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石津玉代 幼い頃より父親に連れられて山に入る。アウトドアメーカーに勤務して本格的に山を始め、アラスカ州デナリ山、アコンカグア山等の海外登山経験を経て、九州を全長3,000キロで1周する九州自然歩道の踏破にむけて情熱をそそぐ。モットーは、山と人とが交わる出逢い旅をつづけること。最近は山と農の暮らしを探求中。

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