Echoes

連載いままでの山、これからの山

ふりかえると歩いてきた山があった。
ただバシャバシャと写真を撮るだけで、何も記してこなかった山のことを、そろそろ書いてみよう。

3いつもの山をつくる

日常に山を取り入れたこと

自宅のベランダから、山並みが見える。
大好きな山の稜線。今の部屋を選んだのは、窓からみえる山並みが素晴らしかったからだ。いまでも自慢の眺望で、朝起きてする山座同定が毎朝の楽しみになっている。
左から、油山、脊振山、金山、飯盛山と連なる。

image 自宅窓からは、波チェックならぬ山チェック。

そのなかでも印象的なシルエットで、小さくこんもりとした容姿がひときわ目立つ飯盛山へ自宅から行こうと決めたのは、2年前のコロナ禍中。部屋に閉じこもっているのは限界だった。

自然に目が覚めた。時計を見ると6時少し前、3月、部屋は薄暗くもう明るい。さっと着替える。何を持っていくのかもたどたどしい、なんにも持っていかなくてもよいだろうと横着な考えもよぎる。登山慣れはしているが、手ぶらでは少し不安で「なにかあったら?」という思考はしっかり身についている。

お気に入りの25リットルの一本締めの軽量ザックを選んだ。飲料ははずせないと、サーモスに熱いお茶を入れ、朝食にとフルーツバーと、とりあえず雨具かなと入れるのはそれくらい。いつもの登山準備よりも、簡単に。いやいや簡素過ぎるでしょ、とご指摘はあるかもしれない。

image 自転車に飛び乗り、肌で感じる朝の気温。

だんだん近づいていく飯盛山へと向かう道。登山口は神社からで、御神体であろう山と大木に出会い、いっきに気分が山に登るぞのスイッチに変わる。はじめは、ゆっくりな登り坂のアスファルトが続き、これが準備運動。ここで午前7時すこし前あたり、同人達にすれ違い、かけあう挨拶で爽やかにはじまってゆく。

image 大きな鳥居の入り口は、桜がむかえる時も。

林道から詰めた先、山頂への標識がある。準備運動は終わっているので、休むもなく、勢いよくのぼる。心拍数もそこまであげずに今日の自分の身体と対話するように登る。きついときもあるし、足どりが軽いときもある。
こんな道だったかなと何度も来ているが毎回違う、集中した良い時間。約30分、汗は少々かく。山頂到着後、休憩もせずサーモスの熱いお茶を2杯ほどいただき下山する。神社の湧水をおいしく頂き、ありがたさと今日の一日に手をあわせる。
帰宅はちょうど午前8時ごろになる。約2時間の行動。朝食をきちんとすませ、出社への準備にも余裕があり、良い流れで仕事へ向かう、これが朝の時間の心地よいバランスになった。

image 5月の山頂から向こうにみえるのは油山。
image 7月の山頂から
image 10月の山頂から
image 12月の山頂から

気づけば山頂からの写真を撮りためていた。並べてみるとほぼ同じ時間に、同じ場所から撮影したものである。場所が同じだけど、見え方が違う。太陽の位置、色など、季節を肌で感じることができた。

めぐってきた、一瞬の感動

完璧な虹をみた。左から右へ、ほぼくっきりな半円状で、その真ん中に飯盛山がすっぽりおさまっている。素晴らしい構図。今までにこんな虹をみたことはない。立ち去るのは心惜しいが、飯盛山へ向かう途中で虹に向かって自転車をこげたので、景色を堪能することができた。私の中では、 こんな虹を見れたことが幸運につながるのでは? と、勝手に祈ったりしてしまった。

image 下山したら、もう無くなっていた虹。

リズムよくつづけて数ヶ月後、寒い冬は起きれなくなった。

不思議と目覚めなくなった。朝6時頃は、まだまっ暗なのである。それまでは、明るい光が部屋に差し込み、起こしてくれていたのだと思った。わかっても無理には起きようともはしなかった。身体も動かなかった。

イメージができる経路。それは、行ったことのある道の往復や繰り返しでだんだんイメージができてきて安心だったり、慣れてくること。行くたびに季節の違いを感じること。自然に起きれたら行く、適度な時間、ひとりの時間、神社への挨拶、おいしい水を頂く。
行かなくても罪悪感はまったく無い。むしろ、「行きたいな」の流れのままいる。惹きつけられる感覚か、呼ばれたという感覚なのか今は考えている。

もうすこしで、暖かい春をむかえる。おのずと陽が長くなるし、また起きれたらはじめよう。いつもの山、山を身近に、自分のスタイルを見つけられて、いまを生きている。

これを書いたのは3月。
6時頃になってようやく明るくなりはじめた。

image 夏の朝、雲ひとつない空と飯盛山

テキスト・写真/石津玉代

プロフィール

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石津玉代 幼い頃より父親に連れられて山に入る。アウトドアメーカーに勤務して本格的に山を始め、アラスカ州デナリ山、アコンカグア山等の海外登山経験を経て、九州を全長3,000キロで1周する九州自然歩道の踏破にむけて情熱をそそぐ。モットーは、山と人とが交わる出逢い旅をつづけること。最近は山と農の暮らしを探求中。

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