Echoes

連載僕は山を走り始めた

50歳を目前にランニングに目覚めた
おっさんの日々のあれこれ。

8人生は不思議だ。

image 脚の形も随分変わった。

50年以上生きていると、いろんなものが俯瞰で見える気になるが、まだまだ予測のつかない事が起こる。僕に至っては、40代後半からの変わりっぷりはまさに別の人生を歩んでいるようだ。まさか自分がハイキングを始めるとは思っていなかったし、ましてやマラソン、さらには山を走る100マイルレースに出るとは想像もしていなかった。

「石川さん、ペーサーやってもらえますか?」

昨年の11月、バーチーの店でたいちゃんと飲んでいる時に、翌年3月開催の100マイルレース「球磨川リバイバルトレイル」のペーサーを頼まれた。このレースは熊本県で行われるトレランレース(このコラムの5話で書いている)で、昨年は、僕が彼をペーサーにつけて完走した。今年はその逆パターンで、彼のペーサーとして僕がつくというわけだ。「いいよ」と軽く返事したものの、だんだんとその言葉の重みがのしかかってくる。

image コースは至るところに水害の爪痕が残る。
image レースにはこの災害を忘れないというメッセージが込められている。

球磨川リバイバルトレイルは、球磨川コース/約167km、累積標高約9,400m、川辺川コース/約102km、累積標高約5,800mで行われる。https://tracksession.org/krt/

彼がなぜこのレースの参加を決意したかというと、しばらく育児に専念するため、プチ引退レースとして大きなチャレンジをしたいという気持ちから。今までレースでは70km以上走ったことがないが、サブスリー(マラソンタイムが3時間を切る)なのでポテンシャルは高い。今のままでも十分完走できそうだけど、本気で練習を始めたから、これはヤバイw。ついていけるのか、俺。

image はじめてたいちゃんと会った日。たいちゃん未来の奥さん(左横の白T)とも初対面w

たいちゃんこと北川くんとは、あやかちゃん(その後、彼の奥さんに)を含めた友人たちと一緒に走ったことがきっかけで知り合った。彼はとてもおだやかな性格で、気が利いて思慮深い。ひと呼吸置いてから返答する言葉は、〝よく考えている〟と思える間違いのない答え。頭がいいなと感じる。そして、真面目。「ちゃんと練習できてない状態ではレースに出たくない」と、わりと結果にコミットするタイプの人間だ。

そんな彼が、昨年12月から2月まで鬼のような練習をする。

・12月距離304km・累積標高15,500m
・1月距離448km・累積標高22,000m
・2月距離543km・累積標高20,000m

image 2月の寒い夜にこの姿で走るたいちゃん。

え?完走目的じゃないの?w
どこ目指してんの?www

朝4時から一人で山に入ったり、60kmもの峠走をこなしたり、一晩中、山を走ったりと、尋常でない練習量をこなしてきた。そこまで走力を上げた彼に、僕がついていけるとはとても思えない…。え?これ死亡案件?と思いはじめたw。僕自身は彼の半分も練習ができてないし、球磨川レース2週間前にマラソン大会に参加してしまったため、ほとんど山にも行けていない。

image ペーサー合流地点の高野体育館にて。

彼からの「ちゃんと練習してますか?」というプレッシャーが強くなり、周囲からの「たいちゃん、めちゃ仕上がってるけど大丈夫?」という心配もされ、レースまで気持ちが休まる日がなかった。それでも、マラソン大会後の一週間、山に行きまくり何とか調子を上げた。昨年は僕もマイルを 3 本走っている。そこそこ走力はあるはず。。長い距離はメンタルが大事。備わってるよね?俺w。たいちゃんの足を引っ張ることだけは避けたい、頼むよ、俺。

僕にとって、ラン友達は人生を豊かにしてくれる存在だ。

今回の大会には、ラン仲間の王子こと谷口くんも友納さんをペーサーに迎え、チーム7trailsとして2組出場した。彼とは、僕が30代の頃、あるデザインスクールの講師をしていたときに彼が生徒だったことがきっかけで出会った。その後、15年ほど交流が途絶えていたが、僕がランニングを始めた頃、彼がマラソン大会に出場していることを偶然Facebookで知り、声をかけ再び交流が始まった。以来、歳の離れた友人として仲良くさせてもらっている。こんな風に再会するとは、人生って不思議だね。

image 王子と友納さん。

友納さんと出会いは、僕がマラソンを始めた頃、近くに目標となるランナーさんが欲しくてINSTAGRAMで探して見つけたことだった。歳も近くて頑張れば追いつけそうなランナー(ごめんw)で、その頃友納さんもサブ3.5あたりだったかな…ちょうどいい目標なのでロックオンしたw。さっそく友納さんのお店「トモノウコーヒー」へ行き、白々しく声をかけた。以来、ランニングはもちろん、最近では一緒にポッドキャストまでやっている仲の良い友人となった。

image オシャレキャラだったが今ではランニングの格好で焙煎しているw

友納さんはとても常識的だ。大人は常識的でしょ!というつっこみが聞こえてきそうだが、僕自身は非常識なところが多いw。僕はマイナスよりもプラスの方向ばかりに目をやり、イチかバチかな面が多い。マイナス要素に注意しない。一方、友納さんはマイナスを一つずつ潰していく、石橋を叩いて渡るタイプだ。友納さんと話すと、もうちょっとちゃんと考えないとなと気づかされる事が多い。そういう違いも気の合う要素かもしれない。

image ときおり一緒に走ってくれたり、ほんとありがとう。

7trailsのメンバーであるバーチーが、彼女のななちゃんと応援に駆けつけてくれた。バーチーとは昨年はかなり一緒に走った。彼が初めての100マイルレースのときに僕がペーサーをしたし、滋賀であった100マイルレース「LAKE BIWA 100」でも一緒に走った。今回はチーム7trailsのサポートとして福岡からわざわざ来てくれたのだ。長距離のレースでは、次のエイドに仲間がいると思うと力が出る。彼の存在は非常にありがたかった。

image ななちゃんとバーチー。

彼との出会いはハイクで九重で行った時に、共通の知人がいて話したのが最初だった。彼とはフィルムカメラやハイキングなど共通の趣味が多く、年齢差はあるが感覚的にフランクで話しやすい。ギアの知識が豊富で、何を買えばいいか迷った時は間違いのないアドバイスをくれる。ランニングに関しては、ロードもトレイルもこなし、100マイルを2本も完走したオールラウンドプレイヤーだ。

思った通りにはいかないことが100マイル。

たいちゃんはこれまで鬼のような練習を積んできたにもかかわらず、前半の疲れと、思いもよらない胃腸トラブルも重なり、80kmにも満たない距離から大失速してしまう。王子も眠気と胃腸トラブルに悩まされ、コース上でちょっと歩いては寝るというフラフラな状態だったらしい。二人とも予定していたレースプランとは全く異なり、サバイバル状態に陥ってしまった。やはりマイルは甘くない。

image ライバルチームのしんくんとシゲさん。この後ちぎられた。
image 夜が明けた。もう24時間以上寝ずに走っている。
image もくもくと走るたいちゃん。

僕と友納さんはペーサーとして調子よく走れていて二人のことを気遣う余裕があった。練習不足の僕でも、70kmも多く走っているたいちゃんよりは走れる。役に立つのか不安だらけだったが、ちゃんとペーサーの仕事ができている。友納さんも王子を励まし、引っ張っていた。優しい友納さんでなければ、王子はやめていたかもしれない。なぜなら、王子はキレやすいからw。王子、ほんとに友納さんで良かったな!

image 王子もだいぶ復活して笑顔もでてきた。
image 最終エイド(A6)4km前くらい。なんとか最後の関門クリア。

今年のレースは昨年とは異なり、トレイルの割合が増えパンチの効いたコースに。さらに関門時間も厳しくなった。初日の気温の高さもランナーたちのスタミナを削ぎ、167kmの球磨川コースと106kmの河辺川コースでは、それぞれ37%と24%の完走率という難易度の高いレースとなった。脚に自信があるランナーもかなり関門に引っ掛かった。もっとも関門時間が厳しいA5にはリタイヤした人が溢れていた。

image かなり急峻な登り。前はこんなのなかったぞ。
image しかし地元の人たちの応援があたたかい!
image エイドが最高!こんなもんじゃない。

レースの細かい様子については、ポッドキャスト「7trailsラジオ練」で話しているので、そちらを聴いてほしい。この低い完走率の中で、チーム7trailsは全員完走することができた。たいちゃんと王子の力はさることながら、応援に駆けつけてくれた仲間や、横で支えた僕と友納さんの力も加わってのことだと思う。最後の力を振り絞ったたいちゃんの走りは凄かったし、関門ギリギリでがんばった王子の完走にも感動した!いいレースだった。

image 28位というすばらしい記録!すごいよ。
image 土砂降りの中のゴール、感動した!(見てないけどw)

たいちゃん:36時間52分49秒
王子:39時間37分23秒

人生って不思議なものだ。

こんな時間が来るとは思わなかったし、こんな楽しみがあるとも思わなかった。
こんな仲間ができると思わなかったし、自分にこんな力があるとも思わなかった。

これからも、思いもしないことが起こるかもしれない、ね。

image たいちゃん、完走おめでとう!

ポッドキャスト 7trailsラジオ練
epi41 超ハードコースに生まれ変わった今年の「球磨川リバイバルトレイル」。7trailsチームで参加してきました。
https://open.spotify.com/episode/6ONyuazbyPX0alGsRAiPCT?si=6cbe695f519d4b0e

直近のレース

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第105回八幡カントリーレース(トレイル23km)
2023年3月26日(日)
3時間58分07秒 完走

福岡県田川郡香春町の採銅所駅から登って福知山を経由して北九州市八幡西区の皿倉山まで、距離23km・累積標高1,800mのショートレースが春と秋の年2回開催される。参加費は3,000円で、ゴール後にはビールやおにぎり、具沢山の豚汁が振舞われ、ホスピタリティに溢れている。今回、僕と友納さんが出たけど前日の飲み過ぎで二人ともグダグダ。べらべら喋りながらのランもたまにはいいね。楽しかった。

テキスト・写真/石川博己

プロフィール

image台風の中でも山に走りに行くよw

石川博己 HAPPY HIKERS 事務局メンバー。本職の持ち出しでデザインや写真を担当w。本コラムでも書いているきっかけで48歳よりランニングに目覚める。2022年に熊本で開催された100マイルレース「球磨川リバイバルトレイル」にて悲願の100マイルレースを完走。ちまたでマイラーと呼ばれるw

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