Echoes

連載僕のULモノローグ

ハイキングスタイルやギアのこと、
ウルトラライトハイキングにまつわる僕のつぶやき

4愛すべきULバックパックと
そのメーカー達

目が覚めた。雷山の頂上近くにテントを張っていたのだが、明け方からかなりの冷え込みを寝ぼけながらに感じていた。生地の薄いテントだから外の様子がぼんやり分かる。モゾモゾとテントの裾から外を覗くと、昨日の好天から一転し、薄明りの中に灰色と化した世界が広がっているのが分かった。
手早く簡単な食事を済ませ(火器を使わない食事は体に冷たいw)、しっとりとしたガスの中、幕にべったりとついている水滴を振り払い、そのままバックパックのメッシュポケットに押し込んだ。
一般的なウルトラライト系のザックの多くには、大きなメッシュポケットが目立っている。このときのように、濡れたものや出し入れの頻度の多い道具をサッと入れたり出したりできるすごく合理的なデザインでありながら、その見た目がULの象徴になっていると言っても過言ではないだろう。 今回は前回に引き続きビックスリーのうちの一つ、ウルトラライトバックパックについて。

image 雷山山頂付近でのテント泊

ULバックパックはULハイキングギアの一番の花形

ULバックパックは、トレイルですれ違う人を見るたびに「お、ULっスね~、いいっスね~」とこっそりと心の中で思える、見た目にそのハイカーの嗜好がハッキリわかる花形と言えるギアである。
こういったUL系のザック達は、ずいぶん昔に完成したデザインなのに外観は現在生産されているものと大きくは変わらない。でも、同時に確実に進化してる部分もあるのだ。
ご存じの方も多いだろうが、今のULバックパックの元祖といわれる『RAYWAYバックパック』というものがある。ザックの形をした完成品を販売しているわけでなく、自分で作成するキットを販売しているのだが、その完成形が印象的なメッシュポケット、トップの一本留め、まさに今のULバックパックのイメージ、そのまんまなのである。
RAYWAYから始まるバックパックの流れが今に続いているんだけど、僕が今までに試したり使ってみた、色々なザックについて気付いた部分や気に入った部分や特徴、そして個人的な思い入れまでを紹介していきたいと思う。

1. 一度使うと病みつきになるメッシュポケットの使い勝手の良さ。

image 脊梁山地にて 左:Mountain Laurel Designs BURN 右:山と道 MINI2(snail_sway私物)

この見た目がイケてるのかイケてないのか!? という問題はさて置き、メッシュの中にエマージェンシーキットやウインドシャツ、レインウェアや脱いだ上着、テン場に着いて一番に敷くであろうグラウンドシートを入れておくのも便利ですよね!
自分の好きなようにポイポイ放り込める、そのごちゃっとしがちな見た目には好みが別れるかも知れないがとにかく便利。
実際に、ザック本体のキャパシティより+α余分に入るのでパッキングに余裕が生まれる利点もある。

image ゴッサマーギア 「Murmur」
ULバックパックの源流であるRaywayザックの流れを汲んだメーカーのひとつ、ゴッサマーギア。この「マーマー」という初期のモデルも薄いシルナイロンで作られていて30リッター程の容量なのに重さは実測196g(背面パッド含まず)と、とにかく軽量!それ故に、パッキングの重量に対してはシビアさを要求され、オーバーウェイトへの脆さは否めない。

2. 背負いやすさも自分次第!

ULバックパックの多くはフレームレスといって、ザック自体を支える骨格となるものがないので、中に何も入ってない状態では自立しない。自分で背負いやすい「形」を作ってあげなければいけないのだ。パッキングのやり方が背負い心地の良し悪しに直結してしまうのだ。
パッキングについては、ある程度のセオリーはあるが基本的に自分次第。スリーピングマットは中に入れようか外付けしようか。硬いクッカーが背中に当たれば最悪だし、もちろん雨対策もしなきゃならない。その上で軽量化しなけりゃ歩きにくいことこの上ない残念なハイキングになってしまうだろう。
そして「ギアの軽量化の最後に行うのがバックパック本体の軽量化」とも言われる。まずバックパックに入れる中身を軽量化しないと、その負荷はバックパックにかかってしまうので故障やトラブルの要因になってしまう。なので、ベースウェイト(もしくはトータルウェイト)とバックパックのバランスはしっかりと考えなければならない。
と言いつつも、今はギアも軽量化が進みバックパックの生地と縫製の進化でそんなに気にしなくてもいい気がするw

image マウンテンローレルデザインズ BURN
マウンテンローレルデザインズは強度のある「ダイニーマグリッドストップ」を使用したザックを多くリリースするメーカー。このBURNを買った当時はメッシュポケットを搭載したモデルでは一番最小だったモデル、日帰りはもちろん泊りもスリーシーズン大活躍できる。グレーのイメージカラーがかっこいい!

3. 「軽さ」にプラス「強さ」を。

今や世界中のハイカーから愛されるULバックパックだが、SNSを覗いても、大手マスプロダクトメーカーから個人のガレージメーカーまでたくさんのULバックパックを見ることができる。
そのなかでは先述したゴッサマーギアのマーマーのように大部分をシルナイロンで作られたモデルは現在では種類が少なくなっている、ザックそのものの軽さを重視するにはいい素材なのだがやはり「裂け」や「擦れ」にそんなに強くないのだ。
それに代わる生地、軽さと強さのバランス。柔らかくしなやかで強度もあるダイニーマグリッドストップ、腰のある硬めの生地がパッキングしやすいX-PACはカラーバリエも豊富な印象。前回のテントの生地のところでも書いた、軽いし強いが高価なDCF(ダイニーマコンポジットファブリック)が今の主流のように思う。

image ZPACKS ZERO
以前は軽さを追及しすぎてDCFを使ったキワモノ製品ばかりリリースしているという印象しかなかったzpacks(良い意味)。今は質実剛健、タフさと軽さとを兼ね備えた製品づくりをしている印象です。
写真のZEROはショルダーハーネスに本体が着くだけのモデルにオプションでメッシュポケットを追加したモデル、今は無くなってNEROに引き継がれています。

個人的にはこの3メーカーにもう一つ「ハイパーライトマウンテンギア」を加えたいところなんですが縁がなく使ったことがないのですw

これからのバックパックの未来は?

紹介した3ブランドはULハイキングの黎明期から創成期をへて現在までを牽引しつづけているわけだけど、熟成した感のあるULシーンでバックパックはどのように変わっていくのだろうか?

image PA'LANTE PACKS  SIMPLEPACK DCF Ver.
今現在、ULシーンで一番注目されているであろうパランテ、僕も大注目です^^
このDCFバージョンのシンプルパックは容量30リッター程で実測240g。
ウエストベルト無し、チェストストラップ無し、なのだがしっかり長距離仕様。

新しいブランドの新しいザックに、年月を過ぎても変わらないULバックパックのデザインが踏襲されている。目新しいデザインにならないということが、そのデザインがすでに完成された合理的なものなのだろうと解釈できる。 ザックの他にも数多の古参から新進気鋭のアウトドアギアブランドがひしめき合っているが、それぞれが、その国や土地や気候、そして文化や思想などのいろんな要素を取り入れながら独自のULに基づいた発想のバックパックが生まれてきているし、これからも続いていくのだろうと思うとまだまだULハイキングギアの模索は楽しそうであるww

image くじゅうの北千里にて 色とりどりのULバックパック達、そしてその人その人の自由奔放なパッキングがある。

テキスト・写真/吉田亮太郎

プロフィール

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吉田亮太郎(よしだ・りょうたろう) インスタグラムでは「moss_hikes」の名前でULバックパッキングを全力模索中。
半分に切った歯ブラシ、背中の空いた寝袋、中途半端な長さのペラペラなマット。
すべて満たされてはないけれど、私は元気です。

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