Echoes

連載Wanderlust

MoonlightGear福岡店の店長が綴る
現在と空想の汀を旅する山行記

2タイトル

Rec.10秒後に始まる撮影までの間、
このストーリーのタイトルを決めることに頭を悩ませている。
10年前に比べると圧倒的に人が増えた太宰府天満宮。
ひとたび考え始めると頑なに答えを出そうとしない私の左脳は
人が多くて雑音が入る環境だと余計に考えることを拒否してくるから面倒だ。
ほら、あっという間に10秒経過。
まだこの柔らかな陽気のままでいさせて欲しいと心のどこかで
思う春の終わり。

image 太宰府駅で下車、いよいよ撮影開始

周りがうかれているように見えてしまうのに
私は良いタイトルが浮かばない。
歩いてればそのうち浮かぶ、きっとそういうものだろうと現時点では多少の余裕。
元は東京から千代さんが来てくれて福岡のローカルな山に行きたいという
お誘いに私が即答したのが宝満山からの三郡縦走。
一泊するには短い距離だけど、YouTube の「ちよ散歩」の撮影となれば
登山道のINとOUTにバエるお店があるので撮れ高も計算できるこのルートは
悪くない、むしろユルっとした雰囲気が伝わって最高なんじゃないかと思えてくる。
いいじゃん、いいじゃん!
いや、それより今はタイトルに集中しよう。
一通り撮影は終え登山口の竈門神社へ。
歴史を辿っても由緒あるこのルート。
やはり古典文学的なタイトルが良いかな。

image 竈門神社からすぐの鳥居。歴史を感じますね。

緩やかな石階段を一歩一歩ゆっくり進めていく。
昔は竈門山とよばれていた宝満山。
山岳信仰である修験道が残るルートは八百万の神を祀ってある厳かな雰囲気。
山の形がかまどの形に見え山頂部分に雲がかかっているのが立ち昇る湯気に見えたことが名前の由来。
新緑の香りが鼻の先を掠める。
二人で進みムーンライトギアの話からプライベートの話まで。
一段一段、会話を交わしながら歩くリズムが心地よい。
そろそろ良いタイトルが思いついても良い頃だ。
石にかけて「布石」を入れようかな、
いや、「鬼滅」を使ったらいいのか、
んー、乗っかりすぎだな。
そんな妄想ばかりしていたら山頂へ。
午後から雨予報。どんよりした灰色の雲が覆っている様は
タイトルがまったく浮かばない私の頭の中を表しているようで。
遠くに小さく見える福岡の街並み。
ムスカ大佐のセリフが出てきそうになったが
やめておこう。社長の前だぞ。

image 少し曇っていたけど福岡の街並みはしっかりと見えた。

隣にいた千代さんは
「すごいすごい、いいねー」と
喜んでくれてる。
やってみるとアテンドってやっぱり難しい。
だから少し安心した。まだ始まったばかりなのにね。
「しかし風が強いな。」
山頂で束の間の時間を過ごした後、そのままキャンプセンターへ。
もともとハンモック泊を想定してたけど
雨風強く、立派なテン場があるためタープ泊に変更。
千代さんはMountain Laurel DesignsのFKT EVENT BIVY。
頭の部分だけ私のタープに突っ込んでいる。
自由だな。
でもこのビビィ、見ていると欲しくなっちゃうな、、、

image 風が強かったのでいつもより時間がかかったタープ設営

風が強い中、なんとか設営して夕食の準備へ。
食事を済ませ、会話が弾む。
寝る前に千代さんにせがんで一夜だけのプレイリストを
作ってもらった。
風雨なのでテン場は貸切状態。
山で音楽を聴きながら眠りにつく、ふわふわと夢の中へ、、
ハンモック泊に未練があったのか。夢に出てきてしまった。
山道具屋をやっているのでハンモックは見慣れている。
しかしタイトルを想像して、あれやこれや考えて過ごす時間は
見慣れていたハンモックを再考させてくれた。いや、夢の中なんだけど。
地上でも上空でもない空中に揺蕩う物体。
サッカーのポジションで例えるなら1.5列目、
いわゆるファンタジスタ的なポジションに位置するハンモック。
ここでゆらゆらと揺られていれば
タイトルという名のゴールに向かって言葉のスルーパスを
ボンボン通せるはず。しかしそんな私の期待と妄想は全てオフサイド。
タイトルは浮かばないのに体は中に浮いてるもどかしさったら。
まぁ、夢なんですけどね。
ぼーっと夜空を見上げるとそこにはうっすらと輝く星々が。
「里山からでもけっこうみえるんだ」と科白めく。
夢だから許して。実際は雨だし。
世の中には星の数ほどセンスの良いタイトルが存在する。
仕事で文章を書くようになって大手企業が打ち出す広告の
キャッチやタイトルを見て天才だなと思うことが増えた。
そんなことを思いながら儚く光る星を繋げて星座にならないかな、
タ、イ、ト、、、
これは病む一歩手前、そもそも星座って形であって文字ではないだろ。
苦しい。
うなされながら目を覚ます。
色んな意味で「寒い、、」
だいぶ、変な夢を見たな。どうしようタイトル何にしよう。
荷物をまとめ早朝からの動き出し、昨夜から降り続く雨のせいで靄る原生林。
薄青白いガスと緑の間に時折、顔を出す藤の花が綺麗で。
情緒をちゃんと感じる年齢になったんだなと思いながら歩く。
気づけば冷えた体は温まっていた。

image 三郡山頂付近。霧を纏う鉄塔

三郡から若杉山までのトレイルは長時間、雨だったのにもかかわらずぬかるみがなく
歩きやすい。水捌けの良い土質に感動する。
アップダウンの少ないルートは初めて縦走する人に勧めれるなーと思いながら
一度道を間違えた私。
学びが足りないぞ!
今回は一泊したけれど日帰りでも行ける距離。
ムーンライトギアがある平尾から西鉄電車で太宰府まで行き、若杉山を下山してJR篠栗駅から
博多駅へ戻れるので気軽に遊べるフィールド。
最高ですな。
おっとタイトルを忘れていた。
正確には忘れていたわけではなく
福岡の家庭で夕食前にある会話、「ご飯できた?」
「炊いとるよ」が頭から離れなくなり意識して考えないことにしていたのだ。
これはヤバい。
もうすぐ下山だぞ。
千代さんがカメラをまわす。
いよいよ、ちよ散歩のエンディングを撮り始める。
横山くんにとって山とは?
突然振られた質問にずっと考えていたタイトルと
ごっちゃになりだらだら喋ってしまった。
「で、簡潔に言うと?」千代さんからの鋭い返し。
ですよね、、、

image 若杉山山頂。

下山後に茶房わらび野でケーキを食し若杉の湯で温まり
最後に蕎麦文治郎で蕎麦と天ぷらを頂いた幸せ山行。
鳥海山の時もこんな感じだったような。
今回は山と街をシームレスに繋ぐ旅。
フィールドが自分の住む場所からすぐに行けるなんて素晴らしい。
日本全国を探してもこんなに近くで気軽に山の中で一泊できる環境はあまりないと思う。
福岡だけでなく九州山域全体が「気軽に泊まれる」フィールドであること。
熊もいないから(笑)
もちろん、自然に敬意を持ち遊ばせてもらっているという気持ちは常に携帯しています。
山に入る理由は
衣食住を担いで山に入り時間を過ごすことは
利便性に富んだ街中で過ごしている時には気づけないことに気づけたり
自分の生活力を知れる学びの場で面白いからです。
そして
「まだ見たことがない景色を見てみたいから。」
その欲望がいつも自分を駆り立てています。
通勤途中や帰り道からいつも見てる里山も
そこにしか、その時にしかない特別な景色と時間があるわけで。
ほら、きっと今この瞬間にも。
あ!タイトル忘れてた。。

テキスト・写真/横山誠二

プロフィール

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横山誠二(よこやま・せいじ) MoonlightGear福岡店店長
福岡県出身
線好き
美容師をやったり
建築の写真撮影など
線に対して強いこだわりを持つ。
山との出会いは写真をきっかけに
稜線に魅了されたから。
今年から雪板をスタート。
雪上にできた放物線に興味を持つ。

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