Echoes

連載Wanderlust

MoonlightGear福岡店の店長が綴る
現在と空想の汀を旅する山行記

3Promenade sentimentale

手が届きそうな灰色の雲。
微かな光が曖昧な陰を映し出す。
渇いた杉落葉の絨毯を踏み締めて。

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後ろから聞こえる慣れない足音と前に伸びるふたつの影。
木々が放つ時の香りを冷たい風が運んでゆく。
生まれて初めて見るかの様。
体を軽くしているのは好奇心なのか。
いつの間にか前を進む大きな鞄。
キラリと輝く蜘蛛の巣に悪戯に裂けた大きな木。
譜面をなぞるせせらぎと崩れた石を飾る苔。
木漏れ日の下で宝石を見つけたような笑顔はさらに輝く。

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初めて歩く道。歩き慣れた道。
秘密の岩場へ向かおう。
行ったこともないのに「山へ行く」と言い出し、未経験なのに先を行く。
後姿に気を取られ振り返る姿に目を奪われた。
「あなたがいつも行っている場所で渡したかったから」
「Happy Birthday」
いつも会えるわけじゃない。
それでもたわいのない会話や、たまにある小さな幸せを大切にしてくれた。

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桜が咲き誇り深くなる緑。
色づいた葉と種が落ちまた息吹く。
違う軌道を歩く僕達はたまに重なる点で繰り返すように出逢う。
終わりなきプロムナード。
そこにある土の香りを確かめながら、きっとこれからも続いていくんだ。

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遠くもなく近くもない鳥の声。風に揺らされ波を打つ。
音が消えるその瞬間を待ち侘びて。
わかっていたけどね、
手が届かなかった灰色の雲。
優しい光は曖昧な気持ちを映し出す。
渇いた涙の跡を踏み締めて。
白んだ空に思いを馳せる。

テキスト・写真/横山誠二

プロフィール

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横山誠二(よこやま・せいじ) MoonlightGear福岡店店長
福岡県出身
線好き
美容師をやったり
建築の写真撮影など
線に対して強いこだわりを持つ。
山との出会いは写真をきっかけに
稜線に魅了されたから。
今年から雪板をスタート。
雪上にできた放物線に興味を持つ。

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