Web Magazine for Kyushu Hikers Community
MoonlightGear福岡店の店長が綴る
現在と空想の汀を旅する山行記
初めて山に一人で泊まったあの日。
自立式テントでダブルウォールの安心感あるやつ。
でも一睡もできなかった。不安?好奇心?
なんか、言葉では簡単に言えない気持ちを今でも鮮明に覚えている。
寝れなかったのは寝袋が薄すぎたことと、外からの正体不明な物音。
外が見えないテント
人は恐怖心を持つと五感が冴える。
眠れず夜を明かし、迎えた朝は安心感だけではなく、
澄んだ感性が当たり前の景色の解像度を上げてくれた。
朝陽が夜露を空へ舞い上がらせ水滴は輝き森に住む生き物たちの
動き出す気配がわかる。
囀りや新鮮な空気を出す緑、その世界は特別な、でもいつもそこにある日常なわけで。
普段の感覚では気づけないことに気づける感覚になれたあの日。
その体験こそが僕が山へ行く理由の一つだ。
もっと自然を感じたい。
もっと初めてを経験したい。
あの先はどうなっているんだろう。
恐怖心と好奇心が入り混じるあの感覚。
あれ以来、もっと自然に近づきたいという気持ちに価値を感じるようになった。
結果、僕の山での住居は今はほとんどがタープを使った宿泊。
自立テントみたいに四方は密閉されておらず、むしろ全開。
屋根だけがあるスタイルは風を感じることができるし、何より景色をちゃんと見ることができる。
あと出入りが楽ってのもあるけど、そもそもがもう外だよねっていう(笑)
天気が良い日は夜でも月明かりでしっかり遠くまで見えたりする時もあるし、
雨の日は滴る雨粒を眺めたりぼーっと贅沢な時間を過ごしたり、雨の日の森をしっかり見るなんてこともタープならでは。
濡れないんですか?と思ってしまう方もいると思うが
大きめのタープを低く張れば雨粒の跳ね返りも防げるし風の影響も受けづらくなる。
雨が降っていれば街中でも濡れる時は濡れるので僕はあまり気にしないけど、でも濡れても良い道具選びは最低限やっている。
そしてやっぱり外にいる感覚が一番好きな理由。
音や匂い、全ての自然をダイレクトに感じることができる。
パッキング時も軽量コンパクトで装備自体を軽くできるしバックパックも九州の3シーズン一泊だと20L台で十分。
限られた時間でも長く歩く計画を立てやすく歩いてる最中も肩の荷は楽なので気持ちよく足が進む。
疲労がなく気持ちに余裕があると見えてくる景色も全然違うのでちゃんと山を楽しめるのも良い。
そんな感じでタープが大好きなわけだが、今メインで使っているタープは2つ。
Hyperlite Mountain Gear FLAT TARP 8.6" x 8.6”と
EQUINOX のGlobe Skimmer Ultralite Tarps 6×8だ。
GW中に傾山、丹助岳、鉾岳の3つの山を歩いてきた。
今回使ったタープはEQUINOX のGlobe Skimmer Ultralite Tarps 6×8。
295gの縦幅183cm 横幅245cmのサイズ感。
一人で使う分にはちょうど良いサイズでバックパックや靴を雨から守ってくれるギリギリのサイズ。
このタープの良いところはガイラインループが3つあるのでこのサイズながら多角的に張れ強度を保つことができる点が
気に入ってる理由。樹林帯が多い九州山域でこのサイズと使い勝手は強い武器になる。
張り方は4片あるうちの3片のループにガイラインを通しペグダウン。
1片だけ吊り上げ木にガイラインで
結びガルウィングのようにするスタイル。
内部の広さをキープしつつ設営が簡単で撤収も楽。
連泊になると保水しないDCF素材のHMGのフラットタープの出番。
259.1cm x 259.1cmの正方形で一人で使うには余裕が生まれるサイズ感。
この大きさで255gは超絶軽い。雨に濡れても重さは変わらず浸水もなく長期で山旅をするなら
このタープである。
山行に合わせて使い分けてきたタープ達。
一人で夜空を眺めながら寝た南アルプスや里山で蚊と死闘した夏の夜も親友と向かい合わせに張ったタープの
真ん中で鍋をした大崩山の思い出もこのタープ達に詰まっている。
タープの開放感は気持ちをもっと自由にしてくれる。
自然と一体になれた感覚。
自然を感じたいから山に行く。汗をかき、土に汚れ、虫に刺される。夜露で濡れ、陽に焼けて、トイレに困る。
そう、僕の本心はそういう不便な不快な、でも当たり前の自然な環境を求めているのではないか?
慣れを飽きる性分が人にはあると思うが利便性を追求した結果、その逆を求めるのは自然な流れかもしれない。
自然をよく観察して自然を知れば知るほど自分の生活が不自然に思えてくる時がある。
道具をミニマムにすることで自然との距離が近くなった。
自然からたくさんの情報を得ることで気づき学び新しい遊びも覚える。
自分が何を求めているのか気づくことが出来たのだ。
僕はこれからもタープで旅をする。
道具をミニマムにして緑の香りを風で感じ、昆虫や動物達の気配を確かめながら自然の真ん中に身を置いて
その一部になろうとすることが好きなんだ。
道具をUL化するのは手段であり、僕の山行目的は『自然と一体になる』こと。
山では本能に従い遊ぼうと思う。
テキスト・写真/横山誠二
プロフィール
横山誠二(よこやま・せいじ)
MoonlightGear福岡店店長
福岡県出身
線好き
美容師をやったり
建築の写真撮影など
線に対して強いこだわりを持つ。
山との出会いは写真をきっかけに
稜線に魅了されたから。
今年から雪板をスタート。
雪上にできた放物線に興味を持つ。