Echoes

連載ゆーこの山釣り備忘録

尺上渓魚と出会える瞬間を日々妄想してるへっぽこ釣り師のテンカラ釣り備忘録。
釣果が良いとよく喋りボウズの時は口数減ります。

1執念の南アルプステンカラ釣行

インスタグラムで備忘録的にしか文章を書いたことない私に突然「ゆーこさん、テンカラコラム書いてください」とびっくりする依頼が飛び込んできた。少し考えたが、なかなかない機会なので書いてみることにした。テンカラについての文章にどのくらい需要があるのかわからないが、今までそしてこれからのテンカラ釣りの記録を気が向いた時に残していければと。つたない文章ですが楽しんで読んでいただければ幸いです。

image 南アルプス北部案内図

2022.8.5~9
今回の遠征釣行はテンカラ仲間と2人で向かう予定だった。それがこともあろうか、仲間の夏休みが急遽仕事の都合でなくなってしまい結果1人で向かう事に。
1人6時間運転で高速&ガソリン費用も半分で最適最安ルートという計画が、片道1000キロひとり運転ということに。目的地まで何度か選択を迫られるJCT、道間違えないかなぁ。というのも、以前くじゅう帰りに友人夫婦を太宰府ICで降りて空港まで送る予定が、なぜか鳥栖JCTを見落とし、長崎方面へ60キロも乗り過ごして嬉野でUターンしフライトギリギリに空港到着という、恐ろしく冷や汗垂れ流しな経験があり、それ以来私にとってJCTはトラウマとなっている。不安要素は盛り沢山。だったが釣り欲が勝り、持ち前のやってみなけりゃ無理かどうかなんてわからない精神で1人で向かうことになった。

image 3泊4日釣行パッキング 12キロ

休みは4日間。幸い1日目と3~4日目をアテンドしてくださる南アルプス渓流スペシャリストのRさんを紹介していただいており、安心釣行は約束されている。2日目にソロで何しよかなと考えていたら、出発前日に神奈川の友人Tくんが北岳に一緒に登ってくれることが急遽決まった。

image 渓流へのアクセス向上のために今年導入した4躯の軽バン、今回コレで南アルプスまで。
運転手以外は耐えれないかも?な乗り心地。ナンバーは尺への願いを込めて303。笑

金曜の昼に仕事を早上がりして13時前に出発。休憩やガソリン補給しながら遅くとも夜中2時には待ち合わせ駐車場へ到着する予定だ。朝イチそこから渓へ移動して山中3泊4日の釣り&ハイクとなる。

4時間運転して320キロ。順調に休憩&ガソリン補給地である福山SAへ到着した。ゴールまでは、あとこの距離を×2。ここまでまったく疲れなく、この調子なら行けそうだ。「私、長距離トラックの運転手になれる気がする」なんて思いがよぎる。好きな音楽をかけ車内1人カラオケ状態で目的地へスイスイ進む。2回目のガソリン補給を予定していた宝塚北SAは、混雑中のお知らせの電光掲示板が目の端に入ったため、次の滋賀の草津PAで休憩する事にした。 順調に8時間、640キロ走破。
あと4時間で目的地の駐車場到着だ。眠気もなく無事到着できそうと思ったその時、滅多に電話してこない家族からの着信。やな予感。
広島の親戚の訃報が入る。マジかー、ここまで来てマジかー。なんと言うタイミング。ウソでしょ…

image 涙目で食べた柿の葉寿司。サバ・たい・サーモン

とりあえず現地駐車場で待ち合わせ予定だったRさんと、2日目に現地入りしてくれる予定だったTくんに連絡し事態を説明し、遠征は中止した。
それまでドバドバ出ていたアドレナリンが堰き止められたのか、一気に疲れが押し寄せた。
翌日に行われる広島へでの通夜の時間に間に合うよう、ゆっくり移動する事にして、そのままPAで寝ることに。滋賀まで来た意味を持たせようと、PAの売店で名物らしき柿の葉寿司を買って噛みしめて食べた。

しかしよくよく考えれば、まず連絡があったのが携帯の圏外になる山中でなくて良かったし、当初来る予定だった仲間が一緒でなくて良かった。不幸中の幸いである。そう思うと、これは何もかも必然だったのかもと、気持ちの整理もつき来た道を戻ることができた。おかげで、お通夜、お葬式に参列して火葬場で故人と最後のお別れをすることができた。

image 広島到着日は奇しくも平和記念日。これまた必然的に呼ばれた気がした

通夜の夜、翌日の葬儀やその後の予定を確認して布団に入るとふと頭をよぎった。
「あれ?可能性はまだゼロではない?火曜まで休みは取ったままだし…」
翌朝6時に目覚めると、居ても立っても居られなくなり、アテンド予定だったRさんへダメ元でメッセージを送る。 「Rさん、おはようございます。釣りバカ最後の悪あがきと思って聞いてください。月火の予定が入っているのなら諦めます。もしまだ入っていなければ、Rさん宅から静岡駅の距離感がわかりませんが、静岡駅で今夜最終到着の23:30以降に私を拾ってもらって予定していた3、4日目の釣行アテンド、まだ可能ですか?火曜に下山して20時までに静岡駅に着くことができれば釣行可能なのです。もちろん可能性はゼロに近いと思って提案しています。予定があれば即お断りください。そうなれば私もスッキリ諦めがつき火葬場から自宅へ戻り、夏休みは取り消し明日出勤します。」
今見返しても早朝6:58になんとも諦めの悪いメッセージを送信している。迷惑な話だ。
ところが、Rさんからの返信はまさかの爆笑マークと「仕事終わりに準備して静岡駅にお迎えに行きますよ!」と飛び上がるほどに嬉しいものだった。
一か八か言ってみるものだ。行けるのだ。一度あきらめた南ア釣行に!バンザーイ!
3泊の予定が1泊2日になったし、北九州から滋賀まで車を走らせたことはまったくの無駄になり、交通費はもちろん当初の計画よりかさんだが、行かない選択をすれば、ずっと後悔を引きずっただろう。

というわけで故人とお別れ後、広島駅近辺で安いPを見つけ車を駐車。車の荷台で喪服から山服へ着替えて、3泊から1泊にパッキングし直したザックを担いでリスタート。 パッキングしたザックを使用しないまま自宅に持ち帰り片付ける侘しさも味わう事にならずに済んだ。

予定通り静岡駅に到着し、Rさんにピックアップしてもらって目的地へ。
「朝のDM、7時にかけてるアラームかと思って見たらビックリでした。さすがにあきらめただろうと思ってたんで。笑」
Rさんは毎週のように南アルプス山域でフライフィッシングを楽しみ、そして驚くことに毎週のように尺上の渓流魚の釣果をあげている向かう川のスペシャリストである。尺上とは尺、つまり30.3cmを超える大きな渓流魚の事で渓流釣りをする者なら一度は釣ってみたい目標のような魚のことだ。お会いするのは今回が初めてで、とてもさわやかで誠実そうな方だなぁと感じた第一印象は、2日間過ごした後も変わらずだった。

以前からインスタでメッセージのやり取りをしていたHさんが、ソロで初めての南ア釣行ならと、急遽Rさんを紹介してくださったのだ。よく引き受けてくれたものだ。おまけにこちら都合で、二転三転したのに嫌な顔一つせず本当に感謝しかない。

車中でRさんと話していると、フライを始めたのは実はココ3年ほどで、高校生の時からテンカラをやっていたということだった。なんと嬉しい。私よりも歳は2つ下だったが、テンカラ歴3シーズン目の私からすれば、テンカラ大先輩。話も弾み現地へあっという間に到着した。

image 標高2位の北岳山頂がクッキリ

車中で仮眠を取った後、徐々に夜が明けてきた。晴天に恵まれ3000m峰が連なる南アルプスの稜線を眺めながら入渓地へ出発。
ゆるい登りが続く林道だが、テン泊装備を担いでの10kmは、ここ最近テン泊山行をまったくやってない私にはこたえた。ヘロヘロだ。すぐにお腹が減り休憩となる。

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image おかか・うめ・鮭に、たくわんが付いたおにぎり弁当。麓の芦安駐車場で要予約で購入できる

当初予定していた釣行中日の2日目の北岳日帰りピストンなんて、無理な話だったんではなかろうかと、同行をお願いしていたTくんに謝りたくなった。

image 急斜面の入渓は慎重に。林道歩きは長く、入渓&脱渓も急斜面だと聞いたためフェルトシューズは危険と判断し、今回は全行程ラバーシューズ使用。

スタートから2時間半後にやっと入渓地へ到着した。標高1900m程の林道から100m程下の渓まで急な斜面を降りて行く。ここで怪我しちゃ終わりなので、はやる気持ちを抑え慎重に時間をかけ、つづら折りに降りて行く。
無事に渓へ到着。透き通った清流、真っ青な空とグリーンの木々のコントラストが素晴らしく美しい。気温は20℃ほどで、足を水につけてもさほど冷たくなく、ちょうど良い気持ち良さ。九州本土最高峰の中岳よりも高い南アルプス1800m地点の奥深い自然に包まれ長旅の疲れも吹き飛んだ。
さて道具を準備して…と言ってもテンカラ釣りのタックルはとてもシンプルで、竿にライン、ラインにハリスを結んで毛鉤を結べば準備完了。
9:00入渓、先行者もなく魚影は濃いだろうからすぐに釣れるものだと思っていた。実際、昨年黒部渓谷へ遠征した時は4時間ほどで、あっという間につぬけ(つぬけとは10尾以上釣ること。一つ二つと数えて、十になると「つ」が付かなくなるため、こう呼ばれる。)したのだ。自分が上手くなったと勘違いするほどの魚影の濃さだった。

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その考えが甘かった。南アルプスのイワナ、全く反応がない。九州にはほとんどイワナは生息しておらず、いつもはヤマメを狙って釣っている。だからといってイワナポイントが違うことくらいは、わかってるつもりだった。しかしあまりの反応のなさに、どこに毛鉤を投げたらよいのかわからなくなり混乱してきた。Rさんも「アタリないですか?なんでかなぁ…」と困惑気味。釣ることができず申しわけなくなる。一旦落ち着いて岩に腰を下ろし、アリを模した毛鉤から、カディスと呼ばれるトビケラを模した水面に浮く物に変えてみた。去年までは、購入した毛鉤も使っていたが、今年は全て自分で巻いた毛鉤のみを使用している。やはり自分の毛鉤で釣れたときの喜びが大きいからだ。

image 今回使用した毛鉤。右上から時計回りに14号と12号の普通毛鉤、アントパラシュート、エルクヘアカディス。フックはバーブレスフック。カエシのついていない魚に優しいフックを使用。ゆえにバラシも多い。笑

カディスをポイントに打ち込む、2投目でパシャッとイワナが飛び出てきた!が、アワセる事ができない。おまけにアワセの勢い余り頭上の枝に毛鉤がかかる。笑
まぁ、打ち込んだところにイワナがいて出てきたことが嬉しい。狙いは間違ってないという自信につながる。枝から毛鉤を回収して再び釣り上がる。

image 記念すべき南アルプス1匹目のイワナ。出てきてくれてありがとう。テンカラ始めるまで魚に話しかける日が来るとは思いもしなかった。笑

開始から1時間半ほどでやっと1匹釣り上げる事ができた!まさかの南アルプスまで来てボウズ?!を回避できた。
27センチくらいの九州だったら大喜びの9寸イワナ。「やったー!ファーストヒット!やったやった」もちろんサイズもやっと釣れたことも嬉しかったが、今回は尺イワナを釣ることを目標にきたのでコレで満足はできない。

1匹釣れたことで焦りはなくなり、美しい南アルプスの自然を楽しむ余裕も生まれた。大好きな鳥も沢山さえずっていた。軽量化のために双眼鏡を広島に停めた車に置いてきたことが悔やまれた。至近距離で水浴びするウソやカワガラスは見れた。
それからはタイミングや狙いが合ってきたのか、バラシもあったがテンポよく4匹ほどを釣ることができた。

image 野いちご絨毯のフカフカな最高な場所
image 尻尾の長いサンショウウオがいた。ハコネサンショウウオかな?

2時間ほど釣り上がった所で一旦ザックを下ろしシェルター設営。辺り一面にとても可愛らしい野いちごが生えた、フカフカした地面の最適な野営地だった。
設営後、釣り道具と水分、エマージェンシーだけを小さめのザックに入れて再び釣りスタート。荷物が無くなり体が軽い。
Rさんに導かれ少し歩いて支流へ入る。本流とは渓相が変わり段差のついた落ち込みが沢山あり、テンカラでポイントを狙いやすい好きな渓相だ。次々と釣り上がることができる。ポンポンとイワナが釣れた。

image 視力回復が唯一の願いだが、こればかりは仕方ない

Rさんが「ゆーこさん、そこにイワナ浮いてるのわかります?」「今、イワナ追ってきて見切ったのわかりました?」と言った具合に素早く遠くからイワナを見つけてくれる。この方めちゃくちゃ目が良い。林道の上からも遥か下の渓を泳ぐイワナを見つけていた。視力1.5って言ってたけど、計測してないだけで5.0くらいあるんではないかと思うほど。狩猟にしても漁にしても獲物を見つける視力が1番大事なんだろうけど、私は残念ながら近視の乱視で最近では老眼も。致命的だ。
なので私の場合、魚が見えない時は、水面にパシャッと飛び出る、もしくは手元に当たりが伝わる、ラインが止まるなどでアタリを取るため、合わせが遅れバラシも多い。コンタクトで矯正はしているが目の良い人にはかなわない。
というわけで、魚を探すよりも、いそうなポイントにどんどん毛鉤を投げる。3回くらい投げて反応なければ次へというのが基本だが、たまにしつこいくらい投げる。
今回はそのしつこくが功を奏した。イワナがついてそうな岩と岩の間へ毛鉤を落とすと、2投目でパシャッと出たのだが合わせれず、その後しつこく同じ場所へ8投くらい、さすがにもう出ないかな?ってとこで再びバシャっと出た!竿を上げるとグンと竿が弓形にしなりググッと重い。慎重に引き寄せる。デカイ!今までの8寸9寸とは手応えが全く違う。後ろでRさんが「ゆっくりで良いですよ、ゆっくりで大丈夫だから、頑張れー!」と声をかけてくれる。なんとか引き寄せることができ無事ネットイン!
「やったー!デカイ!」歓喜の声を上げる私。
デカイ。コレは一目で尺あるなってイカつい面構えのカッコいいイワナ。
たまらなく嬉しい。
Rさんも自分のことのように喜んでくれメジャーを出して測ってくれた。「31.5センチ!正真正銘尺上イワナです!おめでとうございます!」夢にまでみた尺上イワナ、本当に出てきてくれてありがとう。思う存分に記念撮影してリリースした。至福の時間だった。

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image 念願の尺上イワナ。恐竜みたいな顔したカッコいいオス。夢にまで見た至福の瞬間

一泊で南アルプスまで?本当にバカだねぇ…と、他人からは呆れられそうだし、自分でもバカだと思う今回の遠征がココですべて報われたのだ。
Rさんもやっと私が尺を釣ったことで任務遂行でき「良かった良かった」とホッと胸をなで下ろしていた。

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image 「Far Yeast Peach Haze」Rさんが持ってきてくれた地元山梨のブルワリー限定の桃のペールエールで乾杯。ふんわり自然な桃の香りが弾ける爽やかなクラフトビール、美味しかった

この後、もっと大きな40cm弱のイワナを見つけしつこく狙うも釣ることはできず、今の私には無理だとすんなりあきらめ野営地へ戻りビールで乾杯。Rさんの準備してくれた食事をおいしくいただく。本当になんというホスピタリティ。ここでも感謝しかない。焚き火を囲み持参したバーボンも空いて21時就寝。2日目翌朝は5時に起きて朝食と撤収を終え、2時間ほど釣ったところで下山開始のタイムリミットである9時となり終了。
大堰堤手前の急斜面を這い上がるようにして脱渓。Rさんが30mほど上がりますって言ったこの斜面、後からログ見たら90mあった。ふくらはぎパンパンになるはずだ。

そういうわけで、結果、今回尺上イワナを含めて10匹の南アルプスのイワナに会えた。ヤマトイワナは拝むことが出来できなかったが、また次回のお楽しみだ。南アルプスの大自然に包まれた2日間。たった2日間だったが思い出に残る最高の釣り旅になった。

image 次回来る時はもっともっと奥までゆっくり釣り歩きたい

禁漁まであと1ヶ月。
尺を超える魚にまた会えるのはいつになるだろうか。
またあの至福の時間を味わいたい。

テキスト・写真/内海裕子

プロフィール

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内海裕子 2015年から登山を開始。
気づけば毎週末山で過ごすように。そうして出会った山仲間とテンカラやりたいねと盛り上がり2019年6月末にテンカラクラブ結成。経験者なしの全員初心者。試行錯誤しながらも2020年シーズンより本格的に始動。今年で3シーズン目のへっぽこ釣り師。沢泊とビールをこよなく愛す。迷ったら楽しい方!行きたいとこに行き、会いたい人に会い、やりたいことをやるがモットー。

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