Echoes

連載ゆーこの山釣り備忘録

尺上渓魚と出会える瞬間を日々妄想してるへっぽこ釣り師のテンカラ釣り備忘録。
釣果が良いとよく喋りボウズの時は口数減ります。

2テンカラクラブ エピソード1

相変わらず毎週末のように渓に出かけ小さな山女魚しか釣れないシーズンを過ごしており、申し訳ないが面白い話は書けそうにない。前回初っ端から尺イワナを釣った話を書いたので今回はスターウォーズ的にテンカラクラブエピソード1をしたためることに(壮大な物語ではないですw

2019年の春ごろに、以前hikersにも出ていた山仲間の英人君から「ゆーこさんテンカラやりたくないすか?えいじ君も興味あるみたいで、やってみたいねって話してたんですよ。」と誘われる。
山登りを始めてからすっかり釣りから足が遠のいていたが、20代の頃は外遊びと言えば波止場や船からの海釣り、近隣の貯水池でブラックバス、釣り堀で鯉釣り……程度に浅いが釣り経験はあり好きな遊びだった。私の父が現役時代、休日になると海釣りへ行き年に数回は男女群島(長崎県五島にある磯釣りの聖地、釣り人夢の島)まで瀬渡し船で数日かけて行くほどの釣りキチで、釣ってきた魚が自宅冷凍庫に入らないと釣魚専用の冷凍庫を買い足す程だった影響もある。父がナイフやペーパーで木を削り仕上げに蛍光塗料で色付けた自作のウキを沢山乾燥させていた風景や、釣行前にはリールにラインを巻く作業を手伝わされていたこと、小学生の頃はアジコやイカを釣りに近くの波止場に連れて行ってもらったことが懐かしく思い出される。

渓を釣りながらテン泊に最適な場所を探す。仲間と焚き火を囲んで塩焼きにした山女魚をつまみに美味しいお酒を飲みタープの下で星を眺めながらの野営……渓流釣りの本や雑誌、釣り番組で見かけた憧れの世界。好奇心の塊でフットワークの軽さだけが取り柄である私はいいね!やってみたい!とすぐに話に乗っかった。

間もなく渓流釣りは全くの未経験の山仲間が7人集まりネットなどから得てきたテンカラ釣りについての情報交換を行った。テンカラを始めるのに最低限必要な道具を揃えるために近くの釣具店へ行ってみた。
私が住んでいる北九州は日本海側の響灘と関門海峡を挟んで瀬戸内海側の周防灘に囲まれた釣り場も多く海釣りには恵まれた地域。近くを流れる遠賀川は県外からのアングラーも訪れるバス釣りのメッカ。渓流釣りの道具のニーズは無いようで売り場の1%にも満たないであろうスペースに申し訳程度に3本入りの毛鉤セットが1種類のみ置いてあった。結果何も買わずに帰宅し道具は全てネットで購入することに。
有名なテンカラ先生監修のテンカラ竿・ライン・ハリス・毛鉤とテンカラ釣りに必要なものが全てセットになった、いわゆるエントリーモデルを選択した。

image 初釣行の写真、皆まだ装備が本格的ではない

仲間もそれぞれに道具が揃い6月下旬に福岡県内の山女魚が放流されている川へタイミング合う5人で、いざ初釣行となった。
遊漁券(河川で釣りをする場合に事前に購入する許可証、各河川を管理する漁協が発行している。買わずに許可なく釣りをすると密漁となり警察へ通報される)を釣具店で購入し、そのエリアの地図をもらい近場の里川に釣れる気満々で入渓。
いま思い返せば、そんなとこで?山女魚を?と笑えるようなポイント。釣りをしてる途中我らの間を縫うようにショートパンツの彼女とパンツの裾をまくった彼氏がサンダルでバシャバシャと川に入ってきてキャッキャじゃれだして呆然としたのが思い出される。
そこではきっと山女魚は釣れないでしょーよ……と当時の私に教えてあげたい笑

何の反応もなくただただ水面を流れる毛鉤を見つめて時間が過ぎていくばかり。飽きてきた仲間が釣具店であらかじめ購入していたエサのブドウ虫を針につけエサ釣りに切り替えるとすぐさまウグイやカワムツ(ハヤと一括りに呼ばれている淡水魚)が釣れだした。

image 仲間が釣ったカワムツ

毛鉤のみで挑んでる者は皆、雑魚すら釣れない。
面白くないので、私もブドウ虫を分けてもらい毛鉤の先につけて投げると瞬く間にタカハヤ(コレも雑魚だが山女魚と同じ上流に生息) が釣れた。あまりにも生命反応のない長い時間を過ごしたため雑魚でも釣れると嬉しかった。

image 車道から山女魚を探す

その後少し上流へ移動して車道から川をのぞくとゆらゆらと優雅に泳いでいる魚を見つける。パーマーク(サケやマス類の幼魚の体側にある小判型の模様)が見えた!山女魚だ!皆でブドウ虫をつけた仕掛けを投げて反応をみるが山女魚は見向きもせず完全にスルー。何度も投げているうちに山女魚はウザそうに水草のなかに隠れてしまった。その日は結局、エサ釣りですら誰も山女魚を釣ることは出来ず、毛鉤では雑魚すら釣れなかった。
早くもテンカラクラブ改め渓流エサ釣りクラブに名称変更だね…と笑うしかなかった。

数日後、とにかくテンカラで山女魚を釣りたい私はその日山女魚の放流が行われると聞いた県内の河川へひとりで向かった。河川沿いの道で荷台が水槽になった漁協の名前が書かれたトラックとすれ違う。心踊る。車を止めて近くにいた関係者らしき方に声をかけて話を聞くと上流から順に3ヶ所くらいで放流しているらしい。放流された場所を教えてもらいワクワクしながら入渓。
目を凝らし川を観察すると放流されたばかりの10センチくらいのパーマークがはっきり確認できる山女魚の稚魚が少し深くなっている淵に数匹固まって泳いでいるのを見つけた。

image 放流されたばかりの山女魚

いるいる!毛鉤に食いつく瞬間を想像して気持ちがはやる。ハリスに毛鉤を結び竿を降ってみた。しかしよく言われる見えてる魚は釣れないを身をもって知る。毛鉤が着水した瞬間魚がパーッと散るのが見える。笑 何度も毛鉤を繰り返し打ち込むと手応えが!釣れた!何かが!手元で確認するとタカハヤだ笑。しかし雑魚でも初めてテンカラで釣れた魚であり嬉しかった。

image 初めてテンカラで釣れた魚タカハヤ、ヌルヌルしていてあまり触りたくない魚

その後もしつこく毛鉤を打ち込む、しかし全然反応がない。もう帰ろうかと半分諦めかけた頃になんと初めての山女魚が釣れた!釣った!ではなく竿上げたら釣れてた!が正しい表現。笑
それでももう嬉しくて嬉しくて小さな7cmほどの山女魚をしばらく眺め写真を撮った。完全なビギナーズラックで、どこに毛鉤を流して……なんてことは一切考えてなかったと思う。しかし初めての山女魚は去年尺イワナを釣ったのと同じくらい当時は嬉しかった。1人だけど「やった!やった!」と自然に声が上がっていた。写真を撮って「ありがとう」とリリースし元気に泳いでいく姿を確認した。仲間にすぐさま報告した。

image 初めてテンカラで釣れたチビ山女魚

思い返すと当時こんなに喜んだのに今では小さな山女魚が釣れてこれほどまでに喜ぶことはなくなった。強欲だなぁ初心に帰りたいなぁと、チビ山女魚が釣れるたびに申し訳なく思う。

image 2019年9月に沢泊した宮崎の耳川本流 エメラルドグリーンの美しい渓だった

そしてこのシーズン禁漁期までの3ヶ月間、取り憑かれたように週末は渓へ足を運んだ。シーズン最後の仲間との宮崎の耳川釣行では沢泊も楽しめた。しかしそこには焚き火で焼かれる山女魚はなかった。皆でラーメンやパスタを食べていたと思う。仲間が1匹だけ20センチくらいの山女魚を初日に釣っており夕食には少ないから翌日の朝食に塩焼きにして皆で一口ずつ食べようとタモに入れてたのが翌朝には逃げられていたのだ。しかし悔しさはなかったのを覚えている。

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image 焚き火を囲んでの沢泊宴会は毎度深夜まで続く

そして初めて釣れたチビ山女魚以降このシーズン、なんと私の山女魚の釣果はゼロ。笑
思い描いたテンカラ釣行には程遠く失望感漂う初シーズン終了となった。しかし釣れはしないが「毛鉤を投じた場所に山女魚がパシャッと反応することやバラシがあったことを思えば少しは成長してるんですよ、山女魚がいる所に毛鉤が入るようになってるってことですから」と、仲間が嬉しい言葉をくれ励みになった。

image 9月から10月に開花するアケボノソウ。この花を見ると禁漁が近づくのを感じる。私にはダダ星人に見えて仕方ない笑

9月30日で渓流釣りは禁漁になり10月から翌年3月1日渓流解禁までの5ヶ月間は渓へ行けないのでハイク再開という今じゃすっかり板についたサイクルもこの年から始まり、ほぼ紅葉と雪山シーズンのみのハイクしかやらなくなった。山を歩いていても渓があると渓魚がいないか探すようになった。一緒に山を歩く釣りをやらない友達は少々呆れ顔だ。
3月1日解禁日がこれほどワクワク待ち遠しい日になるとは思いもよらなかった。

初シーズン約3ヶ月間 釣行9回 ボウズ8回
釣果合計 山女魚1匹
よくやめなかったなと思う。笑

image 渓を遡行するだけでも気持ち良いもの…釣れるに越したことはないが笑

たいして釣れもしないのになぜそんなに渓へ頻繁に行くのか?テンカラの何が面白いの?と聞かれることがある。上手く答えられないけど簡単に釣れないから行くのかもしれない。
釣れないからこそ、なぜ釣れないのか?山女魚に私の存在を気づかれてはいないか?どうすれば釣れるのか?山女魚はどこにいるのか?こんな流れの日はどこで泳ぐか?どんな虫を食べているか?どうすれば捕食者に見つからず効率よく餌にありつけるのか?気づけば山女魚の気持ちになり、考えをあれこれと巡らす。
アプローチに細心の注意を払いながら渓を遡行し、ハリスの長さや毛鉤の種類、投げ方を変えたりしながら、ひたすら毛鉤や手先に伝わる感覚に集中する。そうこうしているとあっという間に日の入り時刻が近づき脱渓となる。1日が驚くほど短くあっという間に過ぎて行く。
最小限の装備とシンプルな道具で、日頃生きていくために行わなければならない経済活動から完全に離れ、携帯の電波も届かない山の奥の自然に分け入り渓魚を釣ることだけに集中する時間はなんとも至福の時間なのだ。
他にも魅力を書き出せばキリがないほどあるのだけど、それよりも今は毛鉤を巻く時間が大事なのでまたの機会に。
さて今シーズンも禁漁まで残り3ヶ月をきってしまった。思い出に残る渓魚に会えるかな。

テキスト・写真/内海裕子

プロフィール

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内海裕子 2015年から登山を開始。
気づけば毎週末山で過ごすように。そうして出会った山仲間とテンカラやりたいねと盛り上がり2019年6月末にテンカラクラブ結成。経験者なしの全員初心者。試行錯誤しながらも2020年シーズンより本格的に始動。今年で4シーズン目のへっぽこ釣り師。沢泊とビールをこよなく愛す。迷ったらオモロイ方!行きたいとこに行き、会いたい人に会い、やりたいことをやるがモットー。

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