One Day

Day 1420220813 / 雨のち晴れ

image 夕方になる少し前、降っていた雨が上がると、僕たちはきれいな夕焼けを西の空へ見送った。しばらくすると、東の空に満月がたゆたっていた。下の明かりは琵琶湖を挟んだ湖東の街だ

関西の山の仲間たちとの恒例行事である、琵琶湖を見下ろす山の上での宴会は、新型感染症への配慮でここ2年ほどやっていなかった。今年はどうなんだろうと、あまり期待はせずに日程だけ決めて仲間に連絡しておいた。良いのか悪いのか、お盆の前後は行政的な制限はかからないということで、僕たちの宴会は予定どおり開催された。

予定どおりと言っても、この宴会に特に決め事はない。そのことは、半年前のこのコーナーの記事に書いた。おおかたの場所となんとなく始まる時間だけをSNS経由で共有しているだけ。それでも毎年、ここに誰かが集まってくる。
その顔ぶれはさまざまで、割と頻繁に見る顔もあれば、ここでしか会わない顔、まったく初めての顔など。だから、ある程度の人数がそろったタイミングで、いつも自己紹介の時間をもうけることにしている。

最近は、普通の飲み会などでもよく自己紹介しようと率先して声を掛けることがある。自己紹介には実にいろんな発見を促す効果があって、ただその時間を挟むことでいつもの宴会が気付きの多い有意義なワークショップのようになるから不思議である。

もう何度も会っていて、知ったような気になっている人も、その人の自己紹介を聞くと、そうだったんですか!と驚くこともしばしば。人の印象というのは、関わり方によって大きく違ってくる。仕事でしか会わない人の僕が知っているその人は「仕事でのその人」の側面だけ、家庭や友人といるその人は別人のように感じられることも多いだろう。

そんな自己紹介を、山の上で行う。それは、自分自身に煩わしくつきまとう下界での肩書きを肩から降ろし、重量からも解き放たれたかのように軽やかな自分が表出する場なのだ。
修験者にとって、山は体内回帰し生まれ変わりの修行の場だという。
僕たちの宴会は、そこまでとは言わないが、下界にはない何かが確かにそこに存在するように思えるのは、気のせいだけではないはずだ。
自己紹介として自分のことを語っている中で、それぞれに新しい自分自身に出会っているのかもしれない。
今夜は新しい自分と楽しい夜を過ごせそうだ。

テキスト・写真/豊嶋秀樹 写真/苑田大士

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