One Day

Day 1920230313 / くもり

image 真上から鳴き声に見あげると、白鳥たちが編隊を組んで北を目指して街の上空を横切っていった。

3月になると、毎日のように降り続いた雪も、息を整えるようにひと呼吸置く。冬型の気圧配置が徐々に緩み、「三寒四温」と言われるように少しずつ暖気をともなった暖かい日と冬に逆戻りしたような寒い日が断続的に繰り返される。
パウダースノーに興奮状態だった僕たちのスキーが、アドレナリン系からドーパミン系へと移行していくのもこの季節だ。北の大地にゆっくりと春が訪れる。

渡り鳥たちも、この季節がやってくるのを注意深くじっと待っている。
秋にシベリアやカムチャッカから南下して冬を過ごした白鳥はその代表的な存在だ。彼らは、東北地方の湖沼で冬をやり過ごし、春になると北海道を経由して北へと戻り繁殖期を迎える。ただ、春が来ればいつでも良いというわけではない。より安全に負担が少ない旅となるように、しっかりとした南風の吹く日を選んで一斉に飛び立つのである。
春の渡りは、いくつかの中継地点で休憩をとりつつ、1ヶ月近くかけて目的地へと到着するという。北海道は、オホーツク海を一気に渡る前の最終地点となるので、本州の各地から飛び立った数々の群れが集結する場所となる。特に稚内の大沼は、ピーク時には3,500羽ほどの白鳥がここで羽を休め、栄養を補給し、この後に控える長距離飛行に備えるポイントとなっている。

ひときわ強い南寄りの風が羊蹄山の方から吹きつけたこの日、「コォー、コォー」という白鳥の鳴き声が空から降ってくる。沼や畑に集まって鳴いている白鳥はややもするとうるさいなと思うくらいのものだが、上空を渡っていく白鳥の声を不意に頭の上から受けるのは驚嘆と感傷をともなう。 そして、風に煽られて不定形に形を変える「V」の字がとどまることなく北の空へ移動していく様に見惚れる。

彼らの旅の無事を案じながら、僕らはまだ少しかかる地上の春を待つことにしよう。

テキスト・写真/豊嶋秀樹

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