One Day

Day 2120230531 / 晴れ

image 北海道の春は突然に始まる。冬の間にじっと溜め込んだエネルギーを全身で放出するかのようだ。

スキーシーズンも終わったというのに、まだ九州には帰らずに北海道にいる。
例年はゴールデンウィークを目処に南下の旅が始まるのだが、今年は個人的な諸事情により、もうしばらく北海道暮らしが続きそうだ。
この際、春から夏へと向かう北の大地の自然を楽しんでおきたいと思っている。

北海道の春はいっせいに、そしてパワフルにやってくる。
長く厳しい冬をやり過ごし、木々に新緑が芽吹き始めると、山や森全体が明るい黄緑色に輝き出す。春が来たと言っても、日射は穏やかで、気温はなかなか上がらない。そのため、木々は光合成が充分に行えず、葉の緑は濃くなっていかずに薄い緑のまま茂っていくのだ。木の種類によっては、葉緑素が不足し葉が緑にさえならずに、葉が本来持つ黄色や赤といった色素が透けて見える。秋の紅葉とは別の「春紅葉」と呼ばれる現象だ。

足元に目をやると、タンポポが盛んに花を咲かせ、綿毛となっている。
北海道にはエゾタンポポやシコタンタンポポという在来種もあるようだがこの辺りで見られるのは外来種のセイヨウタンポポだろう。
風が吹くと、あたり一面にふわっと漂う綿毛が太陽光を反射し、幻想的な風景となる。
耳を澄ますと、春蝉の鳴き声が大陸から渡ってきた小鳥のさえずりに混ざるようになってくる。
夜になると、森から規則正しいフクロウの低音が響き、オーストラリアからはるばるやってきたオオジシギの不思議な声が聞こえる。小さなバンビを連れた雌鹿の群れが道路を横切るので、運転には充分な注意が必要だ。

自分は同じところでじっとしているのに、僕を取り巻く世界では入れ替わり立ち代わり、日々違った役者が登場しているようだ。
北の大地の、めくるめくセンス・オブ・ワンダーをもう少し感じていよう。

テキスト・写真/豊嶋秀樹

facebookページ 公式インスタグラム