One Day

Day 2420230823 / 晴れ

image 午前中立ち込めていた雲が切れ、陽の光が水面をキラキラと反射させると「積丹ブルー」と呼ばれる青い海が広がった。

お世話になっているスキーの先輩が、「シーカヤック行こうよ」と誘ってくれた。カヤックは、何年か前に対馬でほんの少しだけ体験したことはあったが、実際には今回が初体験と言って良い。

ハワイのカウアイ島にカララウ・トレイルと呼ばれる海沿いの完璧につけられたトレイルをハイキングしたことがある。目的であるキャンプ場は陸からのアクセスがないところで、そこでキャンプするには僕たちのように歩いてくるか、海からカヤックで来るかのどちらかでしか辿り着けない。キャンプ場についてみると、ハイカーよりもシーカヤッカーの方が多数派で、もしかすると、もとは海からしかアプローチできないところに、後になってトレイルをつけて歩いて来れるようにしたのかもしれないと推測した。

テントを張って、灼熱のトレイルの中を運んだ生暖かいビールで乾杯して落ち着くと、浜で荷物を下ろしているカヤッカーの姿をぼんやり眺めた。カヤックには船の前後や、足元などのスペースにたくさん積めるようで、何日滞在するつもりなんだろうと不思議にななるくらい大量の荷物が下ろされていった。作業が終わった彼らが、クーラーボックスから取り出した冷えたビールで乾杯しているのを、僕たちはただ羨ましそうに眺めていたことを思い出す。

人類の歴史を振り返ってみると、冷えたビール以外にもカヤックが果たした役割は多い。アフリカを出発し、陸の果てまで歩いた我々の祖先は、船を作って新天地を目指した。カヤックは、イヌイットと呼ばれる北を目指したモンゴロイドの祖先がアザラシなどの皮を張った船体を作ったのが起源という。もちろんその当時のカヤックは、厳しい環境を生き抜くための狩や移動の道具だった。
今ではレクリエーションとなったとはいえ、カヤックに乗り込み、パドルを漕いで水平線に目を凝らしていると、何やら不思議な気持ちになってくる。
それは海からくるエネルギーなのか、我々のDNAに刻まれた太古の記憶なのか。
青く透明な水面を、音もなくスーッと進むカヤックは、歩くのとは違う新しい感覚での旅の気分を存分に味わせてくれた。

テキスト・写真/豊嶋秀樹

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