One Day

Day 720211126 / 晴れ

image 韓国岳からのぞむ新燃岳と高千穂峰。新燃岳への入山は規制されているが、解除される日が来たときには、高千穂峰から韓国岳のルートを歩いてみたい。

高千穂峰に初めて登った。正直言って驚いた。
登山口には、「天孫降臨の地として伝えられ」と案内のある高千穂峰。ここに天照大神の孫である瓊々杵命(ににぎのみこと)がこの地を高天原のようにすばらしい国にするために降ったとされる場所だという。浅学につき「天孫降臨」という言葉をこれまで知らなかったが、案内板を読んで歩みを進めていくと、確かにここに降り立ったと言われて納得できるような景色が眼前にひろがる。そしてこの霊峰のもとに建立された社殿は、後の時代に大噴火により大きな被害を受け、場所を移して再興させたのが現在の霧島神宮であるということだった。
元の神殿のあった跡地は霧島神宮古宮趾(きりしまじんぐうこぐうし)として整備され、高千穂峰への登山口のひとつとなっている。

山頂へ続くトレイルは火山性の砂礫のため少々歩きにくくはあるものの、1時間半程度のハイキングでピークへ到着する。
この日は、土曜日で天気も良くほぼ無風だったからか、観光客っぽい団体登山者や、ご年配のハイカーさん、子供たちのグループ、家族連れなどでずいぶんにぎわっていた。
鹿児島や宮崎の人にとってみれば、ここは子供の頃に遠足で行くようなところなのかもしれない。しかし、のどかとも言える雰囲気の山頂から望む風景は、樹林の育たない荒涼とした山々に、20以上あるとされる噴火口があちこちで天に向かって口を開き、その最も新しいものである新燃岳の黒々としたクレーターからは、いまだ一面に蒸気が立ち上っている。半ば山の経験があったとしても、僕らのような県外からおとずれたハイカーは、この景色を前に歓喜と感嘆の混ざった吐息を漏らさずにいられない。
対して、もう風景には見慣れてしまったのだろう、次々と登ってくる登山者のみなさんは、さっさと腰を下ろしてお弁当の時間を楽しんでいる。 神より団子。神々もきっと楽しみにしているに違いない、おにぎりをおいしそうにほおばる子供たちの健やかで気持ち良い顔を。

実は、この日のちょうど一週間前に僕は霧島を車で通り過ぎた。
仲間と種子島で10日間ほどのサーフトリップを楽しんだ帰り道だった。僕たちを乗せたフェリーが鹿児島港に着いたのは午後5時半ごろで、あたりが夕闇に溶け込もうとする頃だった。下船後、そのまま宮崎方面へと向かい、ちょうど霧島高原に差しかかったあたりで、真っ黒に影になった森のあいだを縫う道路の先に月が見えた。三日月にしてはやや角度がおかしいように見える。月食だった。偶然のできごとでではあったが、霧島という土地と月食との組み合わせが、不思議な気分にさせた。輝く月の色合いもいつもの月とは違って見えた。
この時ばかりは月より団子とはならず、僕は満月にもどるまで、夜の森の中で見え隠れする月を追いかけながらずっとクルマを走らせた。

そんなことがあった翌週だったこともあり、霧島の高千穂峰が僕には何倍も神妙なものにうつるのかもしれない。

テキスト・写真/豊嶋秀樹

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