One Day

Day 820211227 / 晴れ

image 白浜の千畳敷と呼ばれる浸食された砂岩の大岩盤。観光客が立ち寄るメジャーなスポットであるが、南紀は奇岩、絶壁、洞窟などの地質好きを唸らせる一大ジオワンダーランドである。

僕にとってはもう10年以上の恒例行事?ライフスタイル?となる冬の北海道暮らしに向かう移動に合わせて、その道中も楽しむべく旅行をかねることにしている。
福岡から僕の実家のある大阪を経由して北上することが多い。大阪までの経路は、山口、島根、鳥取を経由する日本海周り、広島、岡山を経由する瀬戸内海周り、四国へ渡っての瀬戸内海周りと、高知、徳島経由の太平洋周りという4ルートが主なものとなる。 そして、行きだったり帰りだったり、もう何度もそのルートは旅したことがあった。何か違うルートはないものかと考え、いっそ門司港から大阪南港までフェリーに乗ってしまい、そこから和歌山へくだるというプランが浮上した。地理的な理由からなかなか行くことのない南紀を少しゆっくり回ってみるというのは魅力的に思える。

そういうわけで、年の瀬の南紀旅行に出かけた。
旅の目的となるキーワードを羅列すると次のようになる。
熊楠、バードウオッチング、うどん、地質、地形、鯨、イルカ漁、The Cove、温泉、熊野、etc。
やや欲張りなテーマに沿ったリサーチから得たポイントをGoogleマップに落として福岡を出発した。
しかし、事前のリサーチをしすぎは禁物だ。旅を窮屈なものにしてしまうからだ。候補地のピックアップは選択肢を増やしておく程度にとどめ、その代わりに、旅のキーワードにも挙げた太地町のイルカ漁を題材にして反響を呼んだ映画『THE COVE』と、その後に日本人監督によって撮られた『おクジラさま ふたつの正義の物語』、そして最近の作品である『VICE 太地町のイルカ漁の今 中国水族館への輸出ビジネス』の3本の映画を見ることにした。
その映画はどれも強烈であったため、僕たちは旅の始まりからずっと、イルカ漁やイルカショー、捕鯨と伝統について、アメリカと日本についてなど、複雑に絡み合った問題や疑問について話すことになった。
それだけの前置きと期待とある種の不安をたずさえて「THE COVE(入江)」の舞台となった土地を訪れた。その結論を単純化して説明するのは難しいし、詳細に書くにはこの場は適当でないと思うので他にゆずらせてもらうが、やはりその場に行くことによって、映像では見えないものが「感じ」として自分の中に入ってきて、ある種、腑に落ちるような気持ちになれることもあるんだなと思った。
そして、真実のようなものはくじら博物館や漁港にだけあるのではなく、今回のキーワードとして挙げたすべてをめぐる旅の要素として、空気のように体に染み込んでくるように思えた。

ネットでなんでも調べて理解したような気にさせられるが、人間の物事に対する理解というのは、疑問に対する答えとなる情報からくるのではなく、その場におけるすべてを含んだ空気を呼吸するような全体的な体験をもってやってくるのだなと、不思議な啓示を受けたような気になった旅となった。

ちなみに、南紀でたどった旅のキーワードたちはどれもすばらしく、その後も継続的に僕たちを魅了している。そして、僕は、スマホの画像ギャラリーをスワイプすると大量に並ぶ、くじら博物館で撮影したイルカたちの写真が流れるたびに、ふと指を止めてはながめている。彼らはどんな新年を迎えたのだろう。

テキスト・写真/豊嶋秀樹

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