Hikers

ハイキングは僕に与える

鵜城康介 1

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いたって平凡

こちゃーんこと、鵜城康介さんは、北九州市八幡西区折尾の出身だそうだ。折尾といえば、東筑軒の「かしわめし」というのが九州人だろうか。現在も折尾のご実家から15分程度のところにお住まいで、根っからの八幡ローカルだ。ちなみに年齢はジャスト40歳、平日は企業にお勤めのサラリーマン。
「いたって平凡なんですけど、大丈夫ですか?」
今回の取材に当たって、鵜城さんは心配そうな声で僕にたずねた。
前情報によると決してそんなことなさそうなんですが…。
それでは、さっそく鵜城さんの「いたって平凡」な生活について語っていただこう。
連載が終わる頃には、いや、この回を読み終える頃には、鵜城さんの心配は無用であったと自信を持って予告させていただく。

「普段の生活は、いたって平凡というか。」 鵜城さんはそう切り出して笑った。

「朝起きて、朝ご飯食べて、仕事行って、帰ってきて、植物見て、夜ご飯食べて、寝る。平日はもうほぼそれです。だから、余計に土日はどこかにでかけたくなる。街にはあまり興味がないので、用事があるときにしか出ていかないです。」

まさに平凡じゃねえか、と思われるかもしれないが、鵜城さんも立派な勤め人。ここまでは前提というか、誰でもというか、平凡さ以前の話ということでもうしばらくお待ちください。
では、週末の山はどこに行くことが多いのだろう。

「メインは福知山が多いですね。コロナ禍ですし、公共交通機関を使わずに行ける近くの山ばかり行っていますね。英彦山とか。車で1時間位で行けるとこが多いです。」

これは、平凡さとは無関係だ。2020年の春以降、全てのハイカーにとっても同じようなはずだ。早く自由に山を歩けるようになることを祈るばかりだ。

「釣りはアジングですね。宗像の大島にフェリーで渡って。朝から行く場合と、夜から行って、夜釣ってテントで寝るってパターンですね。」

アジング? 話がいきなり釣りに飛んだ。釣りをやるという話は実は先に聞いていたのだが、それよりも耳慣れないアジングという言葉の方が気になった。

「アジ専門の釣り、アジングです。釣れるのはマアジとマルアジが多くて、見た目はほとんどわかんないくらい一緒なんですが、尾びれのところがちょっと違うみたいです。アジングって硬い竿ではなかなかできなくて、アジが食べる瞬間がわかる竿じゃないとダメ。アジ専用の竿を買った途端にそれがわかるようになって、どんどんのめり込んでいった感じです。」

アジ釣りがそれほどハマるものだとは知らなかった。

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ご褒美は1,500円

「今、持ってるのはすごく細い竿で、アジが食べる瞬間がわかる高感度でアジ専用の竿なんです。すごく軽いんですよ。竿が50gで、リールが145gくらい。餌は疑似餌です。ジグ単って言うんですけど、ワームですね。」

50gの竿に漂うULの気配。
竿だけでなく、道具を入れて持ち歩くタックルボックスからもヒシヒシとこだわりを感じる。
なるほど、道具も含めてマニア性の高い世界なのだ。
ちなみに、アジは食べる目的で釣ってるのだろうか。

「食べる目的で釣ってます! 帰りのフェリーの時間が決まっているので、それまでにどれだけ釣れるかって感じで釣っていますね。釣れるときは、10匹から20匹くらいですかね。サイズは、23cmくらいから。大きいのは31cmくらいのを釣ったことがあります。尺を狙って、釣りを楽しんでます。」

1尺は約30cmだ。アジもイワナも尺がひとつの基準になっているのがおもしろい。

「30cmの尺アジはメガアジとも呼ばれます。40cmになるとギガアジです! 船で行けば50cm超えのテラアジなんてのも釣れるみたいなんですけど、丘から尺アジを釣るということにこだわってやってる感じです。」

そのこだわりはなぜ?

「船で行ったら魚群探知機で探して魚がいるところに投げるから、釣れるのは当たり前というか。そうじゃなくて、港の周りとか、アジが居そうなところを地形とかを見て自分で歩いてポイントを探したくて。ポイントを探しながら1万歩くらい歩いたりします。」

なるほど、ルートファインディングしながら自分で歩く山といったところだろうか。
釣れた魚の料理についてたずねた。

「料理もしますね。アジフライを作ったり、刺し身にしたり。普段はまったく料理しないんですけど、釣った魚だけは僕が料理します。そしたら、ご褒美としてお小遣いがもらえるんですよ。船代と駐車場代になるので頑張って捌きますね。」

そう言って、鵜城さんはにっこり笑いながら料理した魚の画像を見せてくれた。
ちょっとした小料理屋さんのごとく、皿の上に美しいアジの刺身が盛られている。

「冬のボーナスのときにマイ包丁を買いました。大阪の堺の名入れ包丁なんです。ここまでやって、もらえるお小遣いは1,500円なんですけどね。」

鵜城さんは楽しそうに笑った。

「あとは時期のときはイカとかですかね。エギで、エギング。」

エギング。ネーミングがいちいち楽しい。

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ビカクシダ?

このままだと釣りの話で終わりそうなんで、話題を移そう。部屋の壁にはたくさんの植物がかけられている。植物園の温室コーナーにあるような植物のように見える。

「主にビカクシダとかランが多いです。ビカクシダは別名コウモリランとも言われるんですけど、学名はビカクシダです。コチョウランを木に付けてるんです。」

鵜城さんは丁寧に説明してくれたが、名前に馴染みがなさすぎて僕の脳にうまく届いていない。

「植物の収集は6年前くらいから。きっかけは、実家に102歳になるお婆ちゃんがいるんですけど、歩くのが困難になってきて。それで外に植物を置いてこれを見て少しでも歩けるようにってのが始まりです。」

始まりが優しさに溢れているいい話だった。

「そこから徐々にハマっていって、普通の観葉植物からこうゆう種類のものに移行していった感じです。ビカクシダの魅力は、着生植物なので木に付いていくところですかね。花言葉が「信頼、助け合い」らしいんですけどそうゆうのも気に入って。」

バラばかりの人や多肉植物ばかりの人や、そういえば友人にクリスマスローズ専門の園芸家もいる。何にでも専門領域というのがあるのだろう。ビカクシダばかり育てることに呼び名がないのか聞けばよかった。ビカイングとか?

「小さい根っこが少しずつ出てきたり、花芽が出てきたり。そうゆうのを見つけるのが楽しくて。毎日全部は見きれないですけど、ずーっと見ています。水やりは、霧吹きだけだとあまり染み込まないので、暖かいときは水にドボンと漬けちゃいます。冬は、水をあげないほうがいいのでなるべく乾燥させる。そうすると寒さに強くなるみたいです。全部で30〜40くらいあるのかな。これは2年くらい木に着生させたもの。こうゆうのを見て楽しんでいます。」

鵜城さんは、植物を指差して話し、優しく笑う。

アジングやエギング、ビカイングにしろ、話を聞いていると、鵜城さんにはちょっと変わったものや専門的なものを偏愛する指向性があるようだ。さぁ、そろそろ平凡という表現は鵜城さんを形容するには不適切だということでいいだろう。

「たしかに、興味があるものは王道じゃなくて、ちょっとずれた物が好きな傾向があります。15年くらいバイクに乗ってたんですけど、バイクもハーレーダビットソンの古い形のやつとか変わったものにいきがちですね。ショベルヘッドと呼ばれるやつに乗ってました。だから山もULが好きだったりするのかも。」

そのバイク野郎が山に入っていったわけだ。
それでは、なんとなく鵜城さんの人となりを感じられたところで、次回からは山の話をしましょう。
鵜城さん、もう誰も平凡だなんて言わないのでご安心を。

第1回終わり〜第2回へつづく

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取材/2020年12月27日 テキスト/豊嶋秀樹 テキスト協力/ヒラナミ 写真/渡邉祐介

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