Hikers

九州の山をどんどん
登ってみて欲しい。

永松修

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それをさせるのが僕の仕事なんです

僕は、福岡県宗像市の大きな国道沿いにあるアウトドアショップ「GRiPS」でオーナーの永松修さんに話を聞いていた。GRiPSの広い店内には、トレイルランニング、ファストパッキング、ULハイクまでのギアやウェアが豊富な品揃えでディスプレイされている。福岡から車で来ても1時間弱かかるということも手伝って、少しばかりわざわざやってきたGRiPSから手ぶらで帰ることは実に難しい。

僕は、永松さんに、ULハイクからファストパッキングやトレイルランニングまでの商品とお客さんを相手にしていているお店として、心がけていることについて話してもらっていた。

「お客さんの割合的に言うと、ハイカーとトレイルランナーの割合はちょうど半々か、少しトレイルランナーの方が多いかなという感じですね。ハイクとトレラン、どちらもやるっていう人も結構います。」

僕の偏見的なイメージでは、ハイクとトレランでは同じ山やトレイルを共有してはいるけど、あまり相入れないものだというふうに感じていた。その根拠は、山で寝泊まりするかしないのかというところに大きく関わっているような気がしている。

「そうですね、トレランでは山で泊まったりする人はあまりいないですね。でも、それをさせるのが僕の仕事なんです。」

永松さんは、真面目な顔でそう言った。

「いわゆるファストパッキングですね。僕は、トレイルランニングも登山だと思っています。そういうことをお店や商品を通じて発信しているつもりでいます。最近では、入り口はトレランだったとしても、少し大きなザックを買って山で泊まってみてくれる人もいます。それから、もちろんその逆もあります。ハイカーの人には体力をつけることによって遊びも広がるし、リスクも回避できる。だから体力をつけることは山で楽しく遊ぶためには絶対いいですよっていうことを伝えています。そうするとハイカーのお客さんの中には、ちょっと鍛えてみようかなっていう人は増えましたね。」

やっぱり山に入るのに体力は必要だと思う

永松さんのその言葉は、僕には新鮮に響いた。思い過ごしかもしれないが、ハイクのメディアやショップの売り文句として、「荷物を軽くして楽しよう、そんなに頑張らなくてもいいんだよ」という方向が主流のように感じられていたからだ。

「僕が言わない、真逆のことですね。もちろん、人それぞれなので否定はしないですけど、楽したいから軽くしたいっていうのはあんまり僕は好きではないですね。僕がお店で言っているのは逆のことです。楽しむなら体力つけてみたらいいよって、走ってみたらいいよって。僕は、やっぱり山に入るのに体力は必要だと思うんです。そうでないと危ないと思うんですよ。」

永松さんは、偉ぶる風でもなくそう話した。
昔は、「体力のない奴は門前払いだ」ということも多かったのかもしれないけど、逆に今では、「体力必要ですよ、安全ですよ」って言う人や店はあまり聞かないような気がする。むしろ、ハイクの世界に体力の話を持ち込むことの方が気兼ねするのかもしれない。

「それから、道具やウェアのデザインがどんどん洗練されてきていることもあって、UL自体が一つのファッション的な感じになっているのもあまり好きじゃないですね。色やデザインも道具の一部なので大切だとは思いますが、やっぱり機能性や必要性ということを知ってもらいたいと思っています。特に初心者の方には、まず必要なものちゃんと持って近くの山に行って、その道具をちゃんと使いこなせるようになって欲しいと思っています。その後で、長い距離を歩くとなったときに、装備を削ったり、より軽いものにしたりすることで初めてそれぞれの機能や必要性を理解できると思います。動きやすくなったとか、歩くスピードが上がったとかの喜びを感じるには、ある程度段階というものが必要だと思います。」

売ればいいんでしょうけど売らないんです

僕が初めて九州の山に登ったのは冬のくじゅうだった。そのとき、あまりにもオーバースペックだと思われるような装備の登山者も少なくなかった。おそらくショップの人に勧められて道具を揃えたのだろう。何が必要かなんて、結局のところ実際に山に行って使ってみてからじゃないとわからないだろうけど、ショップの人たちの役割と責任は大きいようにも思う。

「ネットからでもある程度自分で情報を手に入れることができるので、それも大切なことだと思います。そうすることで、より多くの人の意見を聞くことにもなりますよね。あとは、自分が何をしたいのかということは、はっきりしている方がいいですね。こうしたいんです、ということに対して何が必要かっていうのは答えられるんですけど、漠然とした状態だと道具選びも難しくなりますね。実際、まったく山登りしたことない人が、いきなりファストパッキングしたいと言われても難しいとは思います。でも、そうやってやりたいことを言ってもらえれば、そのために今やるべきことをはっきり言います。3年早いですって。」

永松さんはそう言って、ニッコリ笑った。
道具を売るだけなら、そこで高価なULの装備を売ってしまえばいいのだろうけど、永松さんという「アニキ」はそれをお客さんにも自分にも許さないようだ。

「もしかすると、そこで売ればいいんでしょうけど売らないんです。その代わり、はっきり言って無理です、まずそのあたりの山登りから始めてくださいって、そんな風に言わせてもらっています。でも、そういうお客さんが長く通ってくれて、だんだんとやれることがステップアップしてくれるのが良いですよね。そんな感じなので、年配の方なんかとは少し喧嘩っぽくなったりすることもあります。でも、逆に面白いって言って帰って来てくれたりもします。だから言いたいこと言う感じです、僕は。」

GRiPSは、最近は店も週休三日だったり、5時に閉めたり6時に閉めたりということも多い。 永松さんは、「そのかわりに、できるだけ山に行って道具を使うようにしています。そうしていると、道具のこともわかってくるんです。それをお客さんに伝えています。」と答えて、スッと立ち上がると、来店したお客さんの方へ歩いて行った。

第2回終わり〜第3回へつづく

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取材/2016年12月23日 テキスト/豊嶋秀樹 テキスト協力/松岡朱香 写真/石川博己

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