Hikers

九州の山をどんどん
登ってみて欲しい。

永松修

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永松が良いって言うんだから良いんだろう

接客を終えた永松さんが戻ってきた。宗像市にあるGRiPSでオーナーの永松修さんの話を聞いているところだった。先ほどお客さんが来店し、しばらくの間永松さんは、そのお客さんの接客をしていたのだった。待っている間、僕は店内に並んでいる商品を見て回った。
GRiPSは、ハイクから、トレラン、ファストパッキングまでの装備をかなり多く取り揃えているショップだ。オンラインショップの方もかなり充実していて、ページを開くたびについついクリックしてしまいそうになる人も多いだろう。
GRiPSのウェブといえば、ブログも楽しいコンテンツの一つになっている。
ブログは、永松さんの「僕」という目線で書かれているのだがこれが結構面白い。

「あれはですね、商売的な戦略という程のことでもないんですけど、商品の説明ばっかりして販売するということよりも、誰がその商品を勧めているのかをはっきりしたいと思ったんです。GRiPSっていう名前のことを知ってくれている人も少しづつ多くなってきいてると思うんですが、商品を売っている僕自身の声で商品のことや山のことを伝えていきたいという気持ちがあったんです。永松が良いって言うんだから良いんだろうって思ってもらえるように頑張っています。」

僕自身はあまりネットで買い物をする方ではないけれど、永松さんのブログは読み物としても楽しいものになっている。「僕」が永松さん本人の本音なのか、設定されたキャラクターなのかはわからないが、その曖昧さもいいところだと思う。

何がしたいかがわかっていることは大切

話は、その後、装備の「軽さ」について移っていった。ある意味、GRiPSのような山道具屋さんの核心部分とも言えると思う。

「軽くするのって人によって目的があると思うんです。例えば、トレランだとタイムを縮めたいとか、体力の負担を少なくしたいとか。体力に自信がないけど、今年はあそこまでチャレンジするから軽量したいんです、とか。他にも、カメラが趣味で、この重い一眼レフ持って行って行きたいから他を軽くしたいんですっていう人もいますよね。理由は人それぞれです。宴会のビールをいっぱい持って行きたいから他を軽くするんだっていうのも立派な目的ですよね。そんな感じで誰でも軽量化に対して何かの目的を持ってやってると思うんです。
だから、何でもそうだとは思いますが、何がしたいかがわかっていることは大切だと思います。そこがはっきりしていると、それに合った軽量化の方法を考えられると思います。」

何がしたいのかという目的をはっきりさせると、そのための方法が見えてくる。永松さんの話には頷けるところがたくさんあった。全てのことが、目的からの逆算で決まるわけではないと思うが、僕たちの普段の生活においても、今自分が何をしたいのかを知っていると、そのために必要な行動や物のことも自然にわかってくるかもしれない。ULという考えは、山やトレイルを歩くために考案された方法論ではあるが、それは他の場面においても応用可能なものだと思う。
永松さんの話を、山でも街でもおいしいラーメンを食べたければ、おいしいラーメンを食べるための、それに見合った道具や方法というものがあるのということだという風に僕は理解した。永松さんは一言もラーメンの話はしていなかったけど。

「道具はどういう行動をするかによってベストなものって変わってくるので、これでダメかっていうと、まぁダメではないんですけど、適切なものがあった方がいいですよね。季節によっても全然違うし、どういうスタイルでどこを歩くのか、または走るのか。それぞれに、ベストなものは全部違いますよね。ただ、そうやって全てを揃えていくとお金もかかるし、どんどん増えていっちゃいますよね。持ちすぎになっている物は潔く手放すことも大切かもしれませんね。良いものであればフリマやオークションでも高値で取引されてますし。

そう言って、永松さんは笑った。
確かに、毎年新しい高機能な製品が世の中に出てくる中で、買い続けるだけでは回らなくなってくる。ザックもシュラフもテントも10セットづつ持ってるということになると、山の中ではカリカリのULな人なのかもしれないけど、家に帰ったら収まらないくらい山道具が溢れていて、自分の人生は全然ULじゃないということになってしまう。僕の個人的な理想としては、山でも軽いほうがいいけど、ライフスタイル自体も軽くあって欲しいと思う。

「ちゃんと山に向き合って必要なものを揃えていくとそういうことにならないですよね。最近は、UL自体が一つのファッションになってる部分もあって、そういうところには違和感はありますね。僕も、こういうお店をやっているということもあって、もう一度ちょっと原点に還ってみようかなっていう気持ちもあるんです。ちょうどいいバランスというか。軽さはもちろん必要だけど、バランスのいいところを追求していきたいなと思っています。 お客さんにもそういう提案をしていきたいと思ってます。」

個人系のアウトドアショップのオーナーというのは、少しばかり頑固で面白い喫茶店のマスターであって欲しいと思う。例えが僕の世代的で恐縮だけど、僕たちはそんな喫茶店でよくわからないコーヒーの味や、聞いたこともないアメリカの音楽や、将来や仕事のことや女の子とのことまでを学んだように思う。マスターなりの偏った意見もたくさんあるだろうけど、そこにはそのマスターの本当の言葉があった。僕たちはそんなマスターの言葉から敏感にいろんなことを学んだのだと思う。
永松さんのようなシュッとしたダンディーなマスターのいる喫茶店もきっとたくさんの常連さんのいるいい喫茶店なんだろうなと僕は思った。ブログの「僕」はそんな喫茶店のマスターなのかもしれない。

永松修さんのインタビューはこれで最終回となります。
お読みいただきありがとうございました!

全3回終わり

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取材/2016年12月23日 テキスト/豊嶋秀樹 テキスト協力/松岡朱香 写真/石川博己

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