Hikers

直立真顔と書いて「ピュア」と読む

坂本英人 3

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外に出た方が攻められる

チョクマガの話に入る前に、英人さんのもうひとつの顔、というよりも、お仕事の話も聞いておきたい。八百屋さんとは聞いているが、実際のところ英人さんがどうな感じでカタギの仕事をやっているのか気になる人も多いのではないか。

「最初は春日の方に産直みたいな感じの店を出したんですよ。糸島あたりから野菜持ってきてもらってそれを売るような感じの。今はそういうお店も結構ありますよね。」

英人さんが働いていた、いとこのお兄さんの八百屋さんが廃業するからと、もらった退職金と開店資金をパチンコと夜遊びでほぼ使いは果たして、というその後の話だ。

「そのうちに配達してくれないかみたいな話がくるようになったんですよ。店で小売りしててもそんなに売り上げが上がらなかったんで、それをきっかけに店を閉めてしまって、配達一本でやっていくことにしたんです。」

そういう経緯で、英人さんの八百屋ビジネスは始まった。パチンコと夜遊びに返り咲いたというストーリーにならなくてホッとした。(それはそれでおもしろかったはずだが)
では、英人さんの一日のルーティーンについて。

「朝は3時半くらいに起きます。事務所に着くと、うちはセリには入ってないので、お客さんからの注文がfaxとかで入ってきてるんで、その注文をまとめて、在庫確認して発注かけて、照葉の市場に仕入れに行くんです。市場から帰ってきて、注文どおりに仕分け作業して、配達したら終わりです。」

現在のところ、30件くらいの取引先を弟さんと二人で手分けしてやっているという。
ちなみに、こういう配達に特化した仕組みで仕事をしはじめたのは英人さんが30歳になろうかという頃だった。カタギの若き事業家だ。

「店って、待つ商売だけど、自分から外に出た方が攻められるなって思ったんですよ。配達のルート上で営業かけたりもできるだろうし、配達に行ったところの周辺なんかでも注文をもらえるようになるかもしれない。店をあけていたらお客さんがいなくてもそこにいなくちゃいけないから、ずっとそこに人手が取られる。だから思い切って店から配達へ切り替えたんですよ。」

そう話す英人さんに、ビジネスマンとしての才覚が垣間見える。
ひとくちに野菜と言っても色々とあるが、専門とする品種や種類はあるのだろうか。

「ないです。」
そう言って英人さんはゲラゲラと笑った。

「お客さんの注文が入ったら、それのとびきりいいやつを仕入れて持っていく。それだけです。」
お客さんからすれば、英人さんに頼めばいつも良いものを持って来てくれるということだろう。それもまたニーズをとらえたいさぎよい選択ではないか。

「そうですね、僕に任しといてくださいよ、くらいの感じですね。他店よりも高いかもしれないけど、新鮮で手間のかかった、上等品を持って行ってます。A品とか、秀品とか、ランクがあるんですよ。キャベツだったらやっぱり嬬恋がナンバーワンとか。収穫時期に合わせた良いものだけを、ちょっと高いかもしれないけどおいしいやつを、ですね。」

最近では、飲食店だけでなく保育園との取引きにも力を入れているという。
なるほど、じゃあ、仕事がんばられてるってことですねと言うと、英人さんは「そうですね適当に」と照れくさそうに言って笑った。

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「おもろいやん」でつながる

さあ、それでは、みなさんお待ちかねのチョクマガの話を聞こう。
そもそもチョクマガはどこで生まれたのか。

「最初、ユウスケが、山頂でチョクマガして写真撮ってたんですよ。チョクマガって言葉もなかったんですけど、『直立真顔やん』って言ったら、『最近こんな感じで写真撮る』とか言ってて。それでテルと山でユウスケのマネして撮った写真に、インスタで『直立真顔クラブ』っていうハッシュタグつけたんですよ。そっからは、なんかいろんなところで勝手に始まった感じですね。」

チョクマガ誕生の瞬間である。
ちなみに「#直立真顔クラブ」のハッシュタグのついた投稿は2万件を超えている。

「最初は広島の人が『直立真顔クラブ』ってハッシュタグつけてるのを見つけて、『なんか知らん人がつけとる』みたいな感じで。で、ぼちぼち広がってたんですけど、関西の『六甲縦走キャノンボールラン』っていう、おもしろいレースにみんなで行ってチョクマガしてたんですよ。そしたら大阪の人たちが見て、『おもろいやんけ』ってやり出して一気に広がった感じです。」

策略なく、こうして「おもろいやん」で広がっていく出来事は素敵だ。
英人さんたちは、悪ノリ的なグッズ開発もたくさんやっていて、そのクオリティーの高さもチョクマガ人気に一役買っている。

「売っているのはキャップとTシャツくらいですかね。最近はもう作ってないですけど、手ぬぐいとか結構作りました。キャップとかはマイクが作って売ってるんですけど、自分は手ぬぐいを作って、チョクマガしてる人に配ってました。インスタの投稿見て、住所聞いて『ありがとうございます』って送るんです。」

SNSと悪ふざけがダイナミックにリンクしたコミュニティーとして、どこかの大手広告代理店も注目していたに違いない。
そして、こういった早い動きは、気づいたときにはいつもその旬を過ぎ去っていて、当事者たちはもう次の世界へと行ってしまっているものだ。

「自分は、今はしてないですね。チョクマガのハッシュタグはフォローしてるんですけど。でも知らない人はやってますね。ただ、その当時やってた、関西とか広島とかの人たちとは今も一緒に山行ったりとか、忘年会に殴り込んだりとかしてますね。広島からくじゅうへ来るって聞いて、内緒で行ってサプライズ的なことをやったり。名古屋のチョクマガの人たちと一緒に八ヶ岳へ行ったりとか、そういう付き合いは続いてますね。マイクはOMMに関西のメンバーと出ますよ。」

ある意味で、インスタ上でのお遊びだったようなことが、リアルなコミュニティーとして人の輪に根付いている。そして、チョクマガなヤツらは友情にもアツい。

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チョクマガでつながった

「チョクマガやってなくても、ふざけれるポイントやノリが一緒な人達ばっかりなんでしょうね。自然にやらなくなったけど、やってた人たちは同じ匂いがします。僕たち、裏でチョクマガギャザリングとかやってたんですけど、関西、広島、愛知からも来ましたね。でも酒飲んで終わり。そういうところで手ぬぐい配ったりとか、クラフトビールにチョクマガのロゴ入れてお土産に配ったりとか。」

英人さんやその仲間たちは、いわば遊びのプロなのだろう。それが夜遊びだろうと、パチンコだろうと、釣りだろうと、悪ふざけと生真面目な遊び心が絶妙なバランスでブレンドされている。それは、ちょっとしたきっかけで、価値観や興味の方向が合う楽しい仲間をパワフルに呼び込むのだ。

「今付き合いがあるのは、同じ匂いのふざけたヤツらばっかりですね。チョクマガで自分の交流関係は広がりましたね。チョクマガやりだしたのは、ハッピーハイカーズの最初のギャザリングの年だったと思うんですよ。僕とかユウスケとかはギャザリングのときに『あ、直マガの人や』って結構言われましたもんね。」

時期的にハッピーハイカーズとチョクマガはリンクしていた。チョクマガのメンツはハッピーハイカーズバーの常連だった。

「ギャザリングとかバーで声かけてもらってつながっていった人たちが多いですよ。今の仲いい友達はだいたいチョクマガでつながった。それまではユウスケとテルとマイクの四人ぐらいでしか遊んでなかったんで。ハッピーハイカーズバーの後に、いつもカレーを食べに行ってたんですよ。そこらへんで飲んでた人たちに『カレー行くけど』みたいな感じで声かけたりしてましたね。」

ハッピーハイカーズは、九州の山好きのコミュニティーをつくりたいというのが目的だが、チョクマガのみなさんがリアルにつながりの場としてハッピーハイカーズに関わってくれていたことは、運営側にとっては活動の一つの成果としてとてもうれしく、感謝したい気持ちになる。
しかし、そんなハッピーハイカーズの活動も、新型感染症の影響で、なかなかいろんなことがやりずらくなり、法華院ギャザリングもハッピハイカーズバーも何年もやれていない。
しばらくそんなパッとしない話になると、「またやりましょう!」と英人さんが、ニコニコと笑顔でそう言ってくれたのが、消化不良気味の発起人の心に沁みる。
はい、ぜひやりましょう。その時はどうぞよろしく、英人さん!
そう言うと、英人さんはにこり笑ってうなずいてくれた。

全3回終わり

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取材/2021年11月5日 テキスト/豊嶋秀樹 テキスト協力/北川朱香 写真/石川博己

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